38.貴族裁判 31
「事例の少ない裁判ですが――いえ、事例が少ないからこそ、過去の事例を調べるべきでしたね。
正しくは、原告者、被告者に加え、原告・被告が未成年なら、その保護者にも招集が必要です。
今回のように、王族が関わるのなら国王陛下、王妃殿下を含めた御家族も招集者対象となります。
並びに――これは絶対条件なのですが、私ども精霊教会にも招集が必要です。
私どもは参加したり不参加だったりしますが、これまで、招集通知は届いておりました。
――今一度、確認します。
この場に必要な方々に招集通知は出されましたか?」
「それは――……」
口ごもる裁判長は、カディス・フォールズに目を向けた。
カディス・フォールズも驚きを隠せない。
「そんな話は聞いたことがないっ!」
躍起になるカディスに、精霊教会の女性は肩をすくめる。
「貴殿が知らないだけでしょう。手続きには記載されています」
「なぜ――っ!
貴族裁判に精霊教会が必要なのだ――っ!」
「正当な判決か、見極めるためですが――」
カディスの叫びに、精霊教会の女性は嘆息をもらし、視線をフィーナの後方に立つ二人に向けた。
衣服に金色の刺繍を縁取った男性が「仕方ない」といった風情で小さくうなずく。
そのうなずきを見て、精霊教会の女性は言葉を続けた。
「上級裁判は、王族、貴族籍が関与する裁判にございます。
普通、裁判など設けず、個々に対応すべきところ、収拾がつかず、大多数の第三者の意見を持って、正否を明らかにする場――それが上級裁判となりました。
時折、貴族籍と一般市民の裁判もありましたが、その折にも私ども精霊教会に招集はかかっておりました。
――申しそえますが、私どもが参加せず、事実と異なる不当な結果となったとしても。
記録には裁判の結果しか残らないでしょうが、原告、被告のその後をお調べください。
罪を犯した者には鉄槌が落ち、誠実であった者には祝福が与えられているはずですから。
――さて。
なぜ上級裁判に我々、精霊教会を招集しなければならないのか。
その前に――貴族籍の方々はセクルト貴院校で「精霊は嘘偽り、不誠実、真摯でない者を嫌う」と学んでいるはずです。
貴族籍の方々、並びに王族の方々は、一般市民より魔力の強い方々ばかり。
それは精霊の影響が強いということでもあり――魔力が強い者ほど、精霊に日々の動向が、事細かに伝わっております。
――あまたの精霊の前に、画策は通用しません。
精霊は、伴魂を通じて人との繋がりがございます。
表だった、耳障りの良い言い分でなく、真の目論見が、精霊には伝わります。
このたび、私どもに招集が無い中、この場にはせ参じましたのにも理由があります。
ひとえに、この場の平定のためですが――そう言っても、わかりませんよね。
――三秒。
私が右手を挙げて三秒。
各々、魔力、気概にて御自身をお守りください。
――――。
――――。
――では」
戸惑う廷内の者を置いて、精霊教会の女性は、数秒の猶予後、静かに右手を挙げた。




