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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第十一章 精霊の寵児
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38.貴族裁判 31


「事例の少ない裁判ですが――いえ、事例が少ないからこそ、過去の事例を調べるべきでしたね。

 正しくは、原告者、被告者に加え、原告・被告が未成年なら、その保護者にも招集が必要です。

 今回のように、王族が関わるのなら国王陛下、王妃殿下を含めた御家族も招集者対象となります。

 並びに――これは絶対条件なのですが、私ども精霊教会シルニーファにも招集が必要です。

 私どもは参加したり不参加だったりしますが、これまで、招集通知は届いておりました。

 ――今一度、確認します。

 この場に必要な方々に招集通知は出されましたか?」


「それは――……」


 口ごもる裁判長は、カディス・フォールズに目を向けた。


 カディス・フォールズも驚きを隠せない。


「そんな話は聞いたことがないっ!」


 躍起になるカディスに、精霊教会シルニーファの女性は肩をすくめる。


「貴殿が知らないだけでしょう。手続きには記載されています」


「なぜ――っ!

 貴族裁判に精霊教会シルニーファが必要なのだ――っ!」


「正当な判決か、見極めるためですが――」


 カディスの叫びに、精霊教会シルニーファの女性は嘆息をもらし、視線をフィーナの後方に立つ二人に向けた。


 衣服に金色の刺繍を縁取った男性が「仕方ない」といった風情で小さくうなずく。


 そのうなずきを見て、精霊教会シルニーファの女性は言葉を続けた。


「上級裁判は、王族、貴族籍が関与する裁判にございます。

 普通、裁判など設けず、個々に対応すべきところ、収拾がつかず、大多数の第三者の意見を持って、正否を明らかにする場――それが上級裁判となりました。

 時折、貴族籍と一般市民の裁判もありましたが、その折にも私ども精霊教会シルニーファに招集はかかっておりました。

 ――申しそえますが、私どもが参加せず、事実と異なる不当な結果となったとしても。

 記録には裁判の結果しか残らないでしょうが、原告、被告のその後をお調べください。

 罪を犯した者には鉄槌が落ち、誠実であった者には祝福が与えられているはずですから。

 ――さて。

 なぜ上級裁判に我々、精霊教会シルニーファを招集しなければならないのか。

 その前に――貴族籍の方々はセクルト貴院校で「精霊は嘘偽り、不誠実、真摯でない者を嫌う」と学んでいるはずです。

 貴族籍の方々、並びに王族の方々は、一般市民より魔力の強い方々ばかり。

 それは精霊の影響が強いということでもあり――魔力が強い者ほど、精霊に日々の動向が、事細かに伝わっております。

 ――あまたの精霊の前に、画策は通用しません。

 精霊は、伴魂を通じて人との繋がりがございます。

 表だった、耳障りの良い言い分でなく、真の目論見が、精霊には伝わります。

 このたび、私どもに招集が無い中、この場にはせ参じましたのにも理由があります。

 ひとえに、この場の平定のためですが――そう言っても、わかりませんよね。

 ――三秒。

 私が右手を挙げて三秒。

 各々、魔力、気概にて御自身をお守りください。

 ――――。

 ――――。

 ――では」


 戸惑う廷内の者を置いて、精霊教会シルニーファの女性は、数秒の猶予後、静かに右手を挙げた。




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