37.貴族裁判 30
追及してはならないと――なぜか思い込んでいた。
実際、アルフィードは王宮で拉致された。
アルフィードを救出しようと、アブルード国へ渡った。
状況、犯人が誰であれ、隠す必要はないのでは――。
ふと浮かんだ考えを、カイルは頭を振って否定した。
王族の一人である自分が、王宮での拉致を言えるはずがない。
黙り込むカイルに、精霊教会の女性は「ふむ」とつぶやいた。
「言えない事情があるようですね」
傍聴席に座る貴族籍の者達も、精霊教会の女性のつぶやきと同じ思いを抱き、静やかなざわめきが広がった。
ざわめく廷内を、精霊教会の女性はぐるりと見渡した。
「――裁判長。
この場は上級裁判――あなた方が言う貴族裁判ですよね?」
話の腰を折られた裁判長が、渋面でうなずいた。
裁判長の返事を見て、精霊教会の女性は笑みを深める。
「でしたら♪
今回の裁判は無効ですね♪」
精霊教会の女性の言葉に、廷内がざわめいた。
「裁判長っ!」
我慢しきれず、カディス・フォールズが声を上げる。
「即刻、部外者の発言を禁じていただきたい!」
精霊教会が助力になると思っていたカディスは、精霊教会の女性の発言を、じれた思いで我慢していた。
自分たちの雲行きが怪しいと思っていたところへの「無効」の声。
精霊教会の女性は首をかしげる。
「部外者――とは、私でしょうか」
「他に誰がいるっ!」
「――裁判長」
カディスにかまわず、精霊教会の女性は裁判長に顔を向けた。
「私が無効だと言った意味、おわかりですよね?」
「は……え……?」
「この場が上級裁判でしたら、形式が整っておりません。
招集をかけても来られないのなら仕方ありませんが、招集自体、行っていないのなら、無効となって当然でしょう?
――さて裁判長。
招集をかけるべき者、全者に連絡されましたか?」
裁判長は戸惑いつつ、近くの事務官に聞いて、口を開いた。
「手続きは、なされております。
原告者であるカディス・フォールズ氏。
被告者であるフィーナ・エルド嬢。
事件の関係者であるカイル殿下。
私どものが招集したのはお三方にございます」
「はい、アウト~♪」
「――は?」
ケタケタと笑う精霊教会の女性に、裁判長がぽかんとする。




