36.貴族裁判 29
「フィーナ・エルド嬢の近しい人々は、異論あるようですね。
ではカイル殿下。
あなたはなぜこの結果に異を唱えないのです?」
名指しされ、カイルは戸惑った。
――が。
精霊教会の女性に強い眼差しを向けた。
「私に非があり、フィーナ――エルド嬢に非はないと判決が出たとしてだ。
その後、セクルト貴院校で過ごすエルド嬢に何の影響もないと、貴殿は思われるか?」
「はて」と、精霊教会の女性は首をかしげる。
「エルド嬢に非は無いのですから、気にする必要はないかと」
「それで納得しない者がいるから、こうなっている」
カイルの言葉を受けて、精霊教会の女性は「――ふむ」とあごに手を置いて考えた。
「フィーナ・エルド嬢への言われ無き誹謗中傷から守る為、今回の判決を苦渋を飲んで受けいれた。
――とのことですか」
カイルは何も言わなかった。
返事が無いのが、肯定となる。
「なるほど、なるほど」
と、精霊教会の女性は数度うなずいて、にっこりと笑みを浮かべた口元でカイルに顔を向けた。
「清々しい愚か者ですね♪」
うふふ♪
……と笑う精霊教会の女性に、廷内がざわめいた。
「王子殿下に無礼なっ!」
精霊教会の女性への非難が次々と上がる。
場内を埋め尽くさんばかりの怒号となったとき。
「――無礼はどちら?」
精霊教会の女性のものと思われる、静かな声が、廷内隅々に行き渡る。
静かだが、喧噪の中でも誰しもの耳に、確実に聞こえるものだった。
その声から、感情も伝わってくる。
――冷たい炎
淡々とした口調の中に、静かな怒りが燃えさかっている――。
「無理に同行したのはカイル殿下。
それを受け入れ、面倒を見た者へ鞭打ちますか。
――カイル殿下。
今一度問います。
あなたはなぜ、他国へ渡航されたのですか」
精霊教会の女性を非難する声は続いていた。
その中でも、彼女の声はまっすぐにカイルの耳に届いた。
その声からなぜか――彼女の意志を聞いたように感じた。
真相の公開
拉致されたアルフィードを救出しようとしたフィーナに同行して、アブルード国へ渡った。
そのアルフィードは――王宮で拉致された。
アブルード国におけるアルフィードの特異性は別の話として、カイルは、王宮の警備体制が非難されるのを――恐れていた。
警備は万全だった。
――ただ、相手が悪かった。
オーロッド・ウィグネード。
彼に対処できる強者が、サヴィス王国にどれほど存在するか――。
そう思ったとき、カイルは気付いた。
王宮の警備の不備を追及されると思ったから、アルフィード拉致を大きな声で言えなかった。




