33.貴族裁判 26
ザイルの説明を聞いて、マサトは眉をひそめた。
『――だから?』
フィーナもマサトのつぶやきと同じ思いを抱いた。
精霊教会関係者が来場して、何がどう変わるのか。
カイルの伴魂へこちらの問い、感情は伝わっても、被告人関係者席に座る面々には届かない。
カイルの伴魂から、場内の貴族籍が「希少」である精霊教会関係者に興奮しているのは伝わった。
『有名芸能人に会えたって感じか?』
「ユウメイゲイノウジンって何」
こぼすマサトに訊ねるフィーナ。
マサトから伝わる前世の映像で、フィーナも理解した。
理解できたが――現状に当てはまらない気がする。
彼らの目的がわからない。
怪訝に思っていたフィーナとマサトだが、少し後でカイルの伴魂を通したザイルの話を聞いて、少しだけ事情を理解した。
「普段、表舞台にでない彼らですが。
国の有事に姿を現すと文献にありました――」
告げるザイルの動揺が、カイルの伴魂を経た上でも伝わってくる。
カイルの国外渡航が、それほど大事だったのかと、ザイルは危惧しているのだ。
『いや、あいつらの目的がそれかどうか、わからんし……』
マサトがつぶやいても、ザイルには届かない。
マサトは精霊教会二人の登場による人々の高揚感を怪訝に思っていたが、伴魂から得た情報で、何となくの現状に思い至った。
マサトはカイルの伴魂からだけでなく、近くに居る伴魂から、大まかな感情が伝わるのだという。
伴魂の感情は、時に主の感情を反映する。
多数の、畏怖しながらも憧れ、羨望を感じていた。
人々の注目を集めて入館した精霊教会の者二人に、裁判所の事務員が慌てて駆け寄り、話をしている。
数分の会話後、事務員は裁判官席に行き、話し込んでいた。
時間にして数分。
事務員を下がらせた後、主裁判官が、木槌を叩いて咳払いをした。
「精霊教会の方々は、所用で参られたのこと。
関係者あと二人に入廷許可を与え、彼らの傍聴も許可した」
「入っていいってよ~♪」
ヘイ、カモン♪
そんな効果音が聞こえそうな軽い口調で、精霊教会の一人――身長の低い方の、年若に見える方が声を上げる。
その彼女に――声から性別を判断した――、隣の、背の高い方が、ガスン、と拳を頭頂部に叩き下ろす。
うぐ……。
……と、短いうめきが聞こえたような、聞こえないような。
見た状況から感じたのだろうと、フィーナは思いつつ、あっけにとられていた。
状況を把握しきれないまま――カツン、カツンと二つの足音が背後から聞こえた。
――すっ……と。
足下が冷える感覚をおぼえて、体が反射的に強ばり、息が詰まった。




