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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第二章 セクルト貴院校
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38.学年寮長【適任者】


 そうしたサリアに、ローラはつと、興味深げな視線を向ける。


「やっぱり、あんさんは目の付けどころが違うな。寮長らが副寮長に言うのも頷けるわ。こっちの姉さんは人がよさそうで、見るところは見てても、深いところや細かいところまでは見えてへん。

 ……いや、見えてんのかも知れへんけど、深く考えんみたいやな。

 寮長にはサリア、あんたの方があってるんやろうけどな」


 それを耳にしたフィーナはすかさず手を上げた。


「私は向いてない自信あります!」


 だから寮長はサリアに譲りたいなっ!


 そうした意志を込めて「はいはいっ!」と、手を上げて主張するフィーナに、虚を突かれたローラとサリアとラナが、目を丸くした。


 そうした後、ローラは笑い転げ、サリアはげんなりと右手で頭を抱えて項垂れ、ラナは「そんなっ! フィーナさんもすごい方です、寮長できます、向いてます!」と、息を荒げた。


 そうしたラナの勢いに、フィーナだけでなくローラもサリアも驚きの目を向ける。


 集まった視線に、ラナはハッとして、恥ずかしげに俯きながらも言葉を続けた。


「あの時……私の伴魂が傷ついた時……。すごく不安で怖くて……恥ずかしかったんです。だけど、あの時のフィーナさんの気遣いと心遣いと、気になったことを確認してくれたことから、話の流れががらりと変わって……。伴魂の命も尊厳も、私の立場も、フィーナさんが助けてくれたんです。

 ――きちんとした、お礼を言ってませんでしたよね。

 この場を借りて、申し上げます。本当に、ありがとうございました」


 最上級の挨拶と共に、フィーナへの謝辞を述べるラナに、お礼を言われ慣れていないフィーナはおろおろとしてしまう。


「えっと、そんな大したことしてないから。たまたま知ってただけだから。ね? すごいことでも何でもないから……顔上げてよぉ」


「私も、寮長はフィーナが向いていると思います」


 ため息交じりながら告げるサリアの言葉に、フィーナが「ふぇ!?」と驚き、ぴゃっ!と飛び上がった。


「さささサリアまで何言ってんの!? 私、偶然成績よかっただけじゃない!」


「ラナが言うとおり、ラナの伴魂、ラナの魔法に関しては、フィーナの提言があったから打開出来たのよ。その事実は変わりないわ。

 ……及ぼした影響は、半端ないけれど。

 よくよく考えると、フィーナの言っていることに、間違いはないのよね。

 私も、正しい事は知っているつもりだけれど、貴族として過ごしている間に沁みついた『貴族籍としての常識』『貴族籍としての暗黙の了解』に捕らわれてしまうから。

 フィーナが言うことすること、普通のことなの。

 私を含めた貴族籍は、それが出来ないときもある。出来てないことに気付きもしないときもある。

 フィーナには何度も気付かされてきたわ。

 目から鱗の経験、何度味わったことか。

 フィーナだから出来ること、多いのよね。

 身分の違いに、萎縮することもないし」


「え……だって、セクルトの理念って『身分の違いは関係なく、同学年同士対等』でしょ?」


 首をかしげつつ告げるフィーナに、ローラとラナは目を丸くした。


「そうやけど……普通、気にするやん」


 ラナもローラの言葉に頷いて「まったく対等なんて出来ません」と告げる。


「え? なんで?」


「いや……逆に『なんで』って思うか、こっちが聞きたいわ」


 呆れるローラに、フィーナは眉をひそめた。


「だったらセクルトの理念って、何のためにあるの?」


 正論だった。


 正論なのだが、そこは「本音と建前でやりすごすべきなのでは」とローラも思うのだが……なぜか声となって出て来なかった。


 フィーナが本心から「セクルトの理念」に従っているのだろうと思えるのだ。


 そんなフィーナに、ローラはどう言っていいのか、わからなかった。


 諭し諌める必要性も感じなかったし、諌めていいのかと、戸惑いも感じていた。


 フィーナとローラのやり取りを見ていたサリアが、小さく息をついて会話に割って入った。


「フィーナはセクルトの理念『身分の違いは関係なく、同学年同士対等』ではないのかと、カイル殿下にも食ってかかったことがあるんですよ」


「え!?」


「はあっ!?」


 驚くラナとローラ。


「だ、だってあの時のカイル、無茶苦茶だったんだもんっ!!」


「しかも殿下を名前呼び!?」


「はわっ!」


 慌てて口を抑えるが、時すでに遅し。


 言葉を失ってフィーナを凝視するローラとラナに、フィーナは「うううう……」と体を硬くして縮こまっていた。


 そうした中、ふと思い出したことをサリアが口にする。


「そう言えば――。入学式の日、声をかけたカイル殿下を『誰?』と聞いたってホント?」


 これまで聞こう聞こうと思っていたのだが、タイミングを逃して聞きそびれたことを、サリアは深く考えずに口にした。


 それを聞いたローラが、不審な物を見る目つきで、フィーナの頭の先からつま先までを眺め見た。


「あんさん……よう生きてんなぁ」


「だ、だってっ! 入学早々、殿下に声をかけられるなんて、思うわけないじゃないですかっ! 名前は知ってたけど、顔は知らないし、声かけた時、名乗りもしないし!」


「殿下はどうして声をかけたの?」


「それはカイルに聞いてよ……」


 一種の宣戦布告だったのだが、フィーナには説明する気力は残ってなかった。


 しばらく、驚きに硬直していたラナとローラだったが、思考が回復すると、ため息をついてサリアに告げた。


「サリアの言うとおり、寮長はフィーナが向いとるな」


「う゛ぇぇぇぇ……」


「サリアが補佐で付く前提やけどな。そやないと、混乱、半端ないで」


「その点は重々承知しているつもりです。

 ……あとは、行動を起こす前に、相談してくれれば、防げる混乱も多いのでしょうけど。

 ねぇ、フィーナ?」


「うううう……。気をつけますぅぅ……」


 学年寮長から逃げる術はないと判断したフィーナは、肩を落として現状を受け入れたのだった。




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