30.貴族裁判 23
そうだとしたら。
カディスはカイルが「継承権放棄」を言い出す機会を作ろうとしたのだと、より濃厚だ。
ガブリエフ、ザイルは察しているようだった。
だからこそ、カイルを止めているのだ。
『継承権放棄の撤回は?』
「放棄自体事、前例が少ないのです。
無理でしょう」
『戦時中は血筋絶える可能性だってあるだろ?』
食い下がるマサトに、ザイルもガブリエフ、カイルも首を横に振った。
「サヴィス王国は長年、戦のない国だ。
戦火を想定していない」
『危機感、薄すぎだろ』
ガブリエフの返答に、マサトはため息をつく。
フォールズへの対抗手段はないのか。
こぼすマサトに、ガブリエフが静かに告げた。
「先ほどの話で思ったのだが、エルド家の名誉毀損を訴えては?」
ガブリエフの発言にマサトは眉をひそめた。
『訴えたって、鼻で笑われるだけだろ。
一庶民に貴族並の名誉があるのかって』
そう告げたマサトとは逆に、ザイルは「なるほど」とガブリエフの意図を察する。
ザイルとガブリエフに挟まれたマサトは、二人を交互に見た。
戸惑うマサトに、ザイルが答える。
「一庶民が関わる、多数の人命を無下にはできないでしょう」
その言葉を聞いて、マサトもガブリエフとザイルの意図を察した。
『近隣市町村民の医療危機を訴える――?』
しばらく押し黙って、フィーナと意識下の会話をしていたマサトだったが。
『~~~~~っだぁぁああーーーーっ!!
もうっ!!
ワケわかんねー!』
――と、小声ながら叫びを上げて匙を投げた。
『しがらみありすぎ!
思惑絡みすぎ!
ってかガブリエフのおっちゃん!
策はあるって言ってたけど、結局何なんだよ!
小一時間凌げばどうになるって言ってなかったか!?』
フィーナが貴族裁判の被告者となるとわかった時。
対処法を模索した。
裁判自体、理不尽だから応じる必要が無いと息巻くカイルに「策を講じているから」とガブリエフが止めたはずだ。
「確信はないと付け加えたが――」
『確信あってもなくても!
それが何かわかんねーと、こっちの対策しようがねーだろ!』
マサトの言葉を受けて、ガブリエフは逡巡したが――結果は変わりなかった。
「推測では明かせない」
『――――――。
了解。
なら、こっちもそっちに合わせるわ』
マサトは騒いでいた態度を一変させ、背筋を伸ばして居すまいを正す。
『フィーナは自主退学。それに免じてカイルの継承権存続――。
って流れでいいか?』
「ダメだっ!」
声を上げたのはカイルだけだった。
同席する面々、他に方法がないと受け入れている。
――補足するなら。
現時点では他に方法がないから、仕方なく受け入れていた。
そうした状況もわからず声を上げるカイルを、マサトは冷たい視線を向けた。
『だったら。
他に方法あんのか?
継承権放棄以外で』
「――――――っ」
言葉に詰まるカイルに、マサトはため息をついた。




