27.貴族裁判 20
フィーナの衣装も人々の興味を引き、結果、注目と評価を得ている。
――本人達の知らないうちに。
ルディを推していたカディスは、今まで「相手にするまでもない」と高をくくっていたカイルの急成長に、危機感を覚えただろう。
機会を探っていたところで、カイルとフィーナの国外渡航を知り、二人の行為が好ましいものでないと印象づけたいのだ。
(それだけでない)
カディスはカイルが無理に同行したと勘づいている。
無理を言ったカイルでなく、罪のないフィーナが責められるのを目の当たりにしては、カイルも心穏やかではいられない。
自分の行いを悔やむだろう。
王族の自分に甘言を用いたと責められるなら。
違うと説明しても認めてもらえないなら。
自分が王族でなければ、フィーナの罪は問われないはずだ――。
カイルがそう考えるだろうと、ガブリエフもわかる。
おそらく、カディスも想定している。
(そう来たか――)
不可解だったカディスの思惑を、ガブリエフはようやく理解した。
ガブリエフだけでなく、ザイルもフィーナも――おそらくマサトも、理解したはずだ。
カイルの発言を遮った伴魂に「よくやった」とガブリエフは内心、感謝する。
カイルの伴魂は疲れたのか、しきりに体を動かして、カイルの邪魔をした。
その様子をガブリエフは怪訝に思いながら、ふとフィーナに目を向けた。
ガブリエフと目が合ったフィーナは、必死の形相で首を横に振り、声なく口を開けて訴えていた。
――止めて
カイルを、止めて。
フィーナもカイルの考え、カディスの思惑に気付いている。
気付いていないのはカイル当人のみ。
確信したガブリエフは、おもむろに立ち上がると、裁判官に提言した。
「殿下の伴魂もお疲れの様子。
一旦、休憩を入れてはどうだろうか」
ガブリエフの提案に、裁判官は応じた。
カディスは被告側が休憩中に対策をとるだろうとわかりながら、異を唱えなかった。
対抗策がないとわかっているのだ。
カイルの権限を守ろうとすればフィーナをかばいきれない。
フィーナを守ろうとすれば、カイルの提案を受けるのが手っ取り早い。
手っ取り早いが。
「吟味するいとまもなく、口にするのはいかがかと存じます」
ガブリエフはカイルに「王位継承権の話を裁判で口にするな」と諫めた。
休憩中、マサトは被告席側に行った。
証人席にいるフィーナと被告席に座る者達は、裁判中、接触できない。
人は無理だが伴魂の行動は自由だ。




