25.貴族裁判 18
フォールズの経緯は知っている。
興味は無かった。
ただ、聞こえただけだった。
友人が少し離れた場所に行ったとき。
にこやかなフォールズはこう続けた。
「――僕に戻ってくれと頼むだろうから」
つぶやきは友人には届かず。
側を通りがかっただけのガブリエフに、聞こえただけのつぶやきだった。
年を重ねて――身にしみる。
カディス・フォールズの硬骨さを。
宰相と財務大臣職――。
ガブリエフを宰相とすることで、財務大臣職として発揮出来ただろう辣腕を封じた――。
(あり得ないとは、言えないだろう)
実際、フォールズは大きな求心力を持っている。
だから気になった。
なぜフォールズが上級裁判――貴族裁判を起こしたのかと。
相手は庶民のフィーナ。
カイルが正規の手続きをとらず、国外渡航した旨を責めているが、罪状はカイルに甘言を用いて、国財を不当に支出させたとしている。
裁判を起こす意味がわからない。
本当にフィーナがカイルに甘言を用いたと思うのなら、フィーナの罪状を明らかにすれば良い。
――調べればわかる。フィーナに非はないと。
フィーナの罪を問おうとして、成せなかったから上級裁判を起こしたとの経緯なら、ガブリエフも一応の納得は出来る。
――裁判を申し立てるほどとは、どうしても思えなかったが。
しかしフォールズは、フィーナの罪を警務署に届ける前に、上級裁判を起こした。
それがガブリエフは気になって、フィーナを擁護できる席に着いた。
始まった裁判を見て、ガブリエフは「なるほどな」と得心した。
警務署に訴えても、事実無根なのでフィーナに罪はない。
しかし上級裁判で「カイルを惑わす危険分子」と判断されれば、貴院校退学、王都入都も禁じられる――。
ダルメルの薄墨インク不正の経緯はガブリエフも把握している。
不正が明らかになった経緯にフィーナが絡んでいると、極秘裏にしたはずだがカディスの耳にも入ったのだろう。
この裁判で、フィーナを排除したいのか――?
カディスが考えてもおかしくないが、どうもしっくりこない。
フィーナはあくまで庶民。
貴院校卒業後は、実家で両親の手伝いをしたいとも明言している。
今、手を下さずとも、数年後には王都にいない人間に対し、周囲を巻き込んでまで手を下そうとするだろうか?
裁判の行く先、やりとりを探っていたガブリエフは、あえて無言を貫いた。




