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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第二章 セクルト貴院校
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37.学年寮長【ラナのセクルト入学事情】


「あの時聞いた、伴魂への魔力に関して、何度か行ってみたんです。おかげでここまで回復できました」


「話はラナから聞いとる。ありがとな」


「いえ。元気になってくれて、よかったです」


 それからフィーナはローラを伺いつつ、ラナに気になっていたことを尋ねた。


「ところで……学校は……」


 フィーナの言わんとしたことを察して、ラナはローラに目くばせした後、申し訳なさそうに告げた。


「やめると言っていた後で、申し上げにくいのですが……続けさせていただこうと、考えています」


「うちが無理言ってのことやけどな。ラナにはつらい思いさせてホント、申し訳ないんやけど、セクルトの修了証明がどうしても必要なんや。うちにはラナが必要やねん」


 ローラとラナのやりとりを聞いて、フィーナは不思議に思っていたことを尋ねた。


「あの……お二人の関係って……?」


「バーンスタインって、知っとるか?」


「あの、バーンスタイン、ですか?」


 首を傾げるフィーナに、側に来たサリアがそっと会話に加わった。


 そしてローラとラナに簡略の挨拶を送り、二人もサリアに簡略の挨拶を返した。


「そのバーンスタインやろな」


 にっと不敵に笑うローラに、フィーナは隣に来たサリアに小声で「『あの』って?」と尋ねた。


 サリアは困った表情を浮かべつつ、ローラに確認するようにフィーナに答えた。


「衣服関係を全般に扱っていらっしゃいますよね?」


「そうやな。そしてラナはうちが惚れ込んだ仕立て屋や。

 今はまだ商品にできへんけど、そのうち、ラナが考えた商品が一世を風靡するで。

 うちの服はラナに全て任せとるし。

 服が必要な時はうちに言うてや。世話になったお礼に都合付けるで。ラナの作品は最高や」


「ローラ様、大げさです。私は提案をするだけですよ」


「ほぼ手直し必要ないやん」


「――その、ラナが考えた商品は、社交界でも通用するものなのですか?」


「――社交界にこそ、売り込んでいこう思っとる」


 バーンスタインは、衣服を扱う老舗として有名だった。商店名でもあり、貴族籍名でもある。元は、衣服に強いこだわりを持っていた貴族籍の者が、自分の思い通りに服を仕立てるために一連の作業場をお抱えにしたところ、その者が身にまとう衣服が評判を呼び、いつしか販売も行う商店へとなっていった。


 衣服へのこだわりは、血族に脈々と受け継がれ、本人が望むなら男女問わず商売も許される家系でもあった。


 今では貴族籍が身にまとう衣服は、九割がた、バーンスタイン製だ。あまりにも広まりすぎて、それが通常となりすぎて、衣服の製造元がどこかなど、貴族籍でも知る者は少ない。


 ラナはバーンスタインが抱える製造工場の一下請けの娘だった。日ごろから家の手伝いもしていたので、針仕事には慣れている。


 数年前、ローラが姉について、採寸に訪れた際、興味の向くまま、工場内を単独行動して着ていた衣服を派手に汚してしまったことがあった。日ごろからお転婆を諌められているローラが途方に暮れていたところ、居合わせたラナが手早く手直しをしてくれた。


 大胆に汚れた部分を切り取って、それでも布に余裕があったので、寄せて縫いとめて。


 その場しのぎの急ごしらえとは思えない、別物の装いに、ローラは感激し、ラナを重用するようになった。その時の装いは、ローラの姉も感嘆を漏らしたほどで、ラナはローラ家族にもその才能を認められていた。


 ラナとしては、普段の延長だったのだが。遊び盛りの弟たちは、よく服を破ったり洗っても落とせない汚れを付けて帰ってくる。繕いには慣れていたので、ローラにも同じことをした意識だった。ただ、貴族籍の方とは思っていたので、デザインには気を使ったのだが。


 サリアとローラのやり取りに、フィーナも「え」と驚いた。事情を察しているサリアは、すでに渋面を張り付けている。


「ってことは……ラナが関わった製品を買いたいと言っても、ブリジットは買えないってこと? ブリジットだけじゃない。フォールズ籍の人はみんな買えないってこと?」


「あくまでラナが関わった製品だけや。今はまだ、製品はないんやけどな」


「……確かに。社交界での売り込みを考えているのなら、ラナのセクルト修了証明は必要でしょうね」


「デザイナーがセクルト卒業やないと、相手にされへんのや。ラナがセクルト卒業生でなくとも、売り込みは出来なくはないんやけど、興味を持った人から徐々に広がっていくっちゅう、気の長い話になるからな。セクルトで過ごす数年より倍以上、年数かかるやろうし」


「ラナが手掛けた商品を、ブリジットを含めたフォールズ籍の方が欲しがった時、確約書の効力が出て来る、ようやくラナの存在がどういったものか、理解でき、ラナにしてきたことを後悔する。……と言ったところですか。

 ……気の長い報復ですね」


「まあ、ラナが手掛けたものを、欲しがるかどうかもわからんけどな」


「欲しがるとの確証はあるでしょうに。

 ……そうなったとき、ブリジットは自分が得られないだけでなく、得られないフォールズ籍の面々からも非難されるのですね」


「『それは可哀そう』って顔やな。

 うちかて鬼やない。

 心からの謝罪があれば、確約書は無効にするつもりはあんねん。

 ……ホントは嫌やけど、ラナがそうしてくれ言うし。

 だって嫌やろ。自分にひどいことしよった人間に、丹精込めて作ったもの売るやなんて。

 適当な物売ったろかとも思ったんやけど、それやとこっちの評価が下がるしな。

 一応、謝罪っちゅう打開策は考えてんけど……今日見てた限り、頭下げるようには思えんけどな」

 皮肉交じりの笑みを浮かべるローラの話に、サリアはため息で同意を示した。




ラナのセクルト入学の事情です。


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