20.貴族裁判 13
裁判所の雰囲気が、カディスが望む形――フィーナ達に不利な状況に向いている。
加えてフィーナの心境の変化も、マサトを悩ませる一因となった。
カイルの立場が悪くなるくらいなら、自分が非難される方がいい。
結果、セクルト貴院校退学となっても、王都への入都を規制されても、それは仕方ない。
そうフィーナは考えていた。
――つい先ほどまでは。
(――「ねぇ……」)
意識下のフィーナの声は、遠慮がちで……思い詰めていた。
(――「カイルに迷惑かけずに……セクルトに残る方法ってある?」)
ダルメルの薄墨インクで行われた寄付金不正。
フィーナはカディスが煙たがる理由を察した。
同時に、関わる場から排除させる危機にも気付いた。
不正に気付いた経緯に、フィーナが無関係なら、気持ちに変化はなかっただろう。
文官が気付いていれば、フィーナも何の不安もなかった。
しかし不正に気付いた発端は、フィーナが抱いた違和感だ。
フィーナ自身、精査する文官に非がないとわかっている。
フィーナは薬屋を営む両親を手伝って、時折帳簿も付けていた。
精査目線と、実際、帳簿を付ける目線では、感じる違和感に誤差がある。
監査は効率化を図るため、無作為に抽出、精査する。
規定に則った決裁が行われている前提で、帳簿を確認する。
全ての帳簿の精査など、物理的に不可能だ。
監査は、合理的効率的に行われる。
ダルメルの薄墨インク寄付に関してもそうだった。
文官の精査は規定に則り、確実に行われた。
非はない。
アーティー男爵の件が精査からもれたのは偶然、フィーナが気付いたのも偶然だ。
ダルメルの薄墨インク寄付金不正は、精密な偽造書類がなければありえなかった。
気付いた方が奇跡に近い。
そうした事情を知ると、フィーナはなおさらセクルトに――王都に固執する。
自分が関わった事業での不正は許せない。
帳簿を見れる立場を維持したい。
――けれどカイルの不利益にはなりたくない。
フィーナのジレンマを、マサトが一番感じていた。
事前に確認なく、無理に同行したカイルだが、結果としてカイルの転移魔法で助かった。
(――『フィーナとカイルの意志が真逆だと示せれば……』)
カイルの同行をフィーナは非難した。
それを無視してカイルが同行した――。
事実に則った反論をカディスにすると、今度はカイル非難となる。
それはフィーナも望んでいない。
考えあぐねいて、マサトはガブリエフを見た。
ガブリエフは被告席側に座っている。




