17.貴族裁判 10
カディスはフィーナの求心力を恐れた。
芽をつむなら、早いに越したことはない――。
つむ時は、今後、関与したいと思う者がいないほど、重責の方がいい。
王族に関連する事項は、カディスの思惑にそった突き所だった。
スーリング祭の後、カディスはカイルの周辺を徹底的に監視した。
その中で、母方の実家に長期休養する件を耳にする。
カディスはカイルの母方の実家周辺にも監視を置いた。
どのようにすごしているのか探ったが、カイルが来訪した気配がない。
下々の者がカイルを見ることはなくとも、帰省なのだ。
館に、帰省の歓迎式典、他、カイルが過ごす上での変化があるはずなのだが――全く無かった。
そしてふと、同時期に調査させていたフィーナ・エルドの動きを思い出した。
同じクラスの者と、途中まで同行する国外渡航――。
かちり、とカディスの中で附合した。
フィーナにカイルが無理に同行したのだろうと。
気をつけて見ればそう気付くほど、カイルのフィーナ・エルドへの思いは透けて見えた。
フィーナ・エルドとの恋仲は周知の事実で、実際、仲がいいとわかる。
想いはカイルの方が強そうだ。
そうしてカディスが考えたフィーナ・エルドの対策が、この貴族裁判だった。
カイルがフィーナ・エルドと共に国外渡航した。
その理由を、カディスは知らない。
知らないが、想い人の側に居たい、若さ故の感情だろうと思った。
状況が明るみに出なければ――人の目に触れなければ、やりすごせただろう。
それをカディスが「王族としてのあり方」を付いた。
フィーナ・エルドがカイルをそそのかしたと訴え、裁判に召喚する。
エルドは何も言わないだろうが、カイルは「自分の意志」と抗戦するはずだ。
それがカイルの立場的に好ましくないと、フィーナ・エルドもわかるだろう。
フィーナ・エルドがカイルを守ろうとするなら、事実無根の罪を受け入れるはずだ。
「色香に惑わされた王子」などの二つ名を回避させたいだろうから。
王子と庶民。
いずれ別れは訪れる。
優秀だからとカイルがフィーナを登用しても、恋仲は卒業と同時に終焉を迎える。
終わりが確実な関係ならフィーナがどう動くか――。
カディスの思惑通り、カイルの国外渡航に関して、フィーナは黙していた。
被疑者側の弁明にも、表情を崩すことなく状況を見ている。
戸惑う様子もない。
静かに状況を受け入れる姿から、フィーナは反抗しないだろうとカディスは察した。




