14.貴族裁判 7
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その時の感情を、どう表現すればいいのか。
マサトの話を聞いた時、フィーナは一瞬息を止め――全身が総毛立つ怒りを覚えた。
ダルメルの薄インク寄付事業。
気候の影響で生活に苦しむ人々の助けになるよう考えたものが、関係ない人たちの懐を肥やす材料になるのが、フィーナには我慢できなかった。
ダルメルの薄インク寄付事業は、フィーナが提案したものだ。
元から関与するつもりでいたし、帳簿類はフィーナが望めば全て目を通せる約束を、関係各署に通達していた。
――寄付事業は貴族籍の懐を肥やす――
そう聞いたとき、フィーナは「なぜ」と不思議でならなかった。
国の財政を担う国の役人が、なぜ見抜けないのかと。
だから帳簿を見たかった。
自分が発案して始まったものの、ゆく末を確認したかった。
最初の先制が効いたのか、おかしな帳簿は目に付かなかったのだが。
(一月に、一男爵から1000の受注――?)
多量産が難しい時期の受注数に目がとまった。
注文は多方面から受けている。
それでも一注文100か200前後だった。
結局、1000の注文は受けきれず、100の注文に変更を願い出た。
変更は了承され、品も100送った。
それは後に聞いた話で明らかになったことだ。
フィーナが見た帳簿には。
受注、発注、受取、代金精算。
全て完了している帳簿に「受注発注精算1000」とあった。
在庫管理も把握していたフィーナには奇異に見えた数だった。
確認して、そこで不正が明らかとなる。
帳簿には寄付を受けるダルメル領側と、寄付をする貴族側の帳簿が存在する。
帳簿にも二種類有り、領を管理する公的な帳簿、貴族の資産を管理する私的な帳簿があった。
これまで寄付と言えば、貴族の私的財産から行うのがほとんどだった。
しかしダルメルの薄インクは、寄付をする貴族領の公的資金で一定数購入し、購入したそのままの金額で各領の市場に出すことで、迅速化を図った。
販売経路の中途経費をとっていないので、売れ残れば購入した貴族領の損失となる。
そうした部分を考慮して、国は公的資金で購入した分に対して、一定の割合で税を控除するとした。
領の公的資金。
それは領民の税が財源なので、運用に注意を払った対策をとったのだった。
――税控除の案は、マサト発案だった。
アーティー男爵側の帳簿には、フィーナが違和感を覚えた件も含めて、書類偽造も数点あった。
それはアーティー男爵の帳簿を見るだけでは気付かず、ダルメル側の帳簿と付き合わせて判明したものだった。




