13.貴族裁判 6
カイルにマイナスのイメージを与えたくない。
マサトは周囲を見渡した後、フィーナに告げた。
(――『サリアのとーちゃんが言うには、半々だと』)
カイルは伴魂も伴っている。
マサトはカイルの伴魂を通して、被告席側とやりとりしていた。
マサトがフィーナの側にいるのはそのためだ。
残念ながら、被告席側の情報、意志をフィーナ達が把握しても、フィーナ達の意志、情報は被告席側には届かない。
半々とは「王族としてあり得ない、誇りはないのか」との非難と、「非公式の渡航がどういったものか、理解した上で、自身の身分におごらず、自らの提言に準じた評価されるべき意志の固さ」との賞賛で二分されていた。
賞賛側は「庶民の生活で得た経験は、殿下に好影響を与えている」とカイルを快く見ている。
自分が非難されるとわかりきったこの場に、被告側――フィーナ側に同席しているのが好ましく映っていた。
裁判官を交えた、被告側ザイルの弁論、原告側カディスの弁論。
フィーナは注意深く聞いていたが――どうしてもわからなくて、マサトに聞いた。
(――「結局。裁判までして、フォールズ侯爵は何をしたいの?」)
(――『何って――フィーナを追い出したいんだろ』)
(――「追い出すって、セクルトからだよね。
私がセクルト退学させられて、侯爵に良いことある?」)
市井出身者の一学生と侯爵。
フィーナを退学させたいなら、裁判など公の場でなくとも、やりようはありそうだが。
クレア・キャンベルをブリジットの担任にあてがったように、セクルト貴院校内で手だてはあるだろうと、フィーナは思う。
裁判となるとフィーナだけでなく、カイルも関わってくる。
カディス・フォールズはルディを推す一派だ。
次期王位継承者争いからすると、カディスにとってカイルは邪魔だろうが、現段階でカイルから――王族から、不興を買うリスクを冒す理由がわからない。
(――『それは――』)
答えようとしたマサトも『言われればそうだ』と戸惑った。
マサトの感情はフィーナにも伝わる。
そうした最中、マサトが意識下の会話をふと止めた。
うかがうように、虚空を見つめて意識を集中する。
(――『……マジかよ』)
ため息まじりにこぼしたマサトは、こう続けた。
(――『サリアの父ちゃんからの情報。
ダルメルのインク寄付。
不正で摘発された貴族がいるんだが。
その貴族にフォールズ侯爵が関与している。
……で。
その貴族――アーティー男爵は、フォールズ侯爵に借りがあって、逆らえず、いいなりになったらしい。
帳簿も巧妙だった。
帳簿に詳しい役所の人間が何人も見てたし、ダルメルのインクに関しては、サリアのにーちゃんも、帳簿類は全部目を通してた。
官職はだれも気付かなかった。
違和感に気付いたのは――フィーナだけだった』)




