12.貴族裁判 5
帰国後、極秘裏としても、何かの拍子に事情を知った者に避難されても、カイルは「自らが望んだこと」と、はねのけるつもりだった。
王族への非礼は裁判を経ることなく、罪か否か、刑法に準じる。
当事者もしくは親類縁者が訴えた場合だ。
本人、親類縁者も訴えない場合――第三者が訴えを起こし、裁判が開かれる。
王族や、上位貴族籍が関与する事案が該当する。
王族や上位貴族は、周囲に与える影響が大きいため、冷静な第三者の意向を検討させるべきとされたものだった。
過去の過ちを反省してのものだったが――適用事例はほとんどない。
関係者は貴族籍がほとんどなので「名誉の毀損」で逆に訴えられるのを恐れていた。
よほど勝利を確信していなければ難しい。
何より、当事者間で話がついているものを、第三者が口出しするのはよほどのことだ。
カイル自身、身勝手な行動は承知の上だ。
それが誰かも不利益を生じさせてはいない。
なのに無関係のカディス・フォールズがしゃしゃり出てくるとは、思ってもみなかった。
それも無理を通したカイルを糾弾するのでなく「カイルをそそのかした」と事実無根の罪でフィーナを糾弾するとは。
カディスの糾弾後、被告側からザイルが証言した。
公にはされていないものの、カイルは渡国の許可を取っている。
クレンドーム国との交流から、他国の見聞を広げたく思っていた。
フィーナとラナが国外へ行くと聞き、同行を願い出た。
学生の身分のため、公式として大事にはしたくなかったので、極秘裏とした。
「護衛に関してですが、私を含め専属護衛騎士二人、先だって行われた騎士団の競技会優勝者、シンも同行しておりました。
少数精鋭としては十分だと思いますが」
ザイルの話に、場がざわついた。
話だけ聞けば、十分すぎる護衛だ。
カディスが訴える「護衛の不備」は退けられる。
――専属護衛騎士二人は勝手に付いてきたこと、シンとの合流は後日だった点は説明を省いているが、ウソはついていない。
フィーナとしては別なことが気になった。
(――「優勝してたの?」)
(――『若気の至りだ。
……挑発されたのカチンときて、やっちまったんだよなぁ』)
渋面でマサトはこぼす。
その時の情景だろう。
競技会の記憶が意識下で伝わってきて、フィーナも納得した。
教典通りの剣術になれている騎士は、シンの武術を交えた剣術に翻弄されていた。
被告側はザイルが主に話をするようだった。
カディスの主張する「カイルの威光で優遇された」場はなく、非公式の旅故、平民の、一般的な宿や食事で過ごしたと告げる。
傍聴席がざわついた。
(――「これってどっちの反応?
王族としてあり得ないって非難?
よく対応したって賛辞?」)
傍聴席の反応は、この場に居合わせる貴族籍の心情だ。




