11.貴族裁判 4
マサトの戸惑いはフィーナも感じた。
(――「私が望んでセクルトに来たんじゃないって知らないのね。
セクルト退学は避けたいって思ってると勘違いしてるんじゃない?」)
貴族籍の子息子女は、セクルトを卒業していれば、品行学力に一定基準の折り紙が付けられる。
市井出身者は、貴族籍と関わる時「セクルト貴院校卒業生」との肩書きで、信頼を確保できる。
――では、どちらも望んでおらず「珍しい伴魂を制御する学びの場を」として入学したフィーナは?
これまでの成績で「伴魂を制御している」と教師陣も認めている。
フィーナとしてはいつセクルト貴院校を離れてもよかったのだが。
いらぬ騒動を起こすより、残り数年、セクルトのカリキュラムに準じて、学生生活を成し遂げようと考えていた。
――何より。
サリアやカイル、ラナや他のクラスメイト、寮生――。
彼女彼らと過ごすうちに、セクルトから離れがたくなっていた。
とは言っても、固執するほどではない。
「王子をそそのかした悪児」
と糾弾されるなら甘んじて受け入れる。
(それより――)
アルフィード拉致、カイルの自発的同行。
それらが明らかになるのをフィーナは恐れた。
アルフィード拉致は、王宮警護の不備を糾弾される。
カイルの同行は、王族としての認識が低すぎると避難される。
そう考えると、フィーナが糾弾されるのが一番傷が少なくてすむ。
(――『納得すると思うか?』)
サリアを始め、同席する面々は、そうならないように集まったのだ。
特にカイルは異を唱えるだろう。
(――「説得してよ」)
(――『無理に決まってんだろ』)
フィーナとマサトが意識下の話をしている間に、裁判をするに至った事情が説明された。
フィーナがカイルに甘言を用いて、正規の手続きを踏まずに国外渡航をそそのかした――
お忍びなので護衛が手薄となり、危険にさらした。
カイルの同行を求めたのは、道中、カイルの威光で、衣食住の便宜をはからせる為だった――。
裁判官が今裁判の概要を話した後、カディスがフィーナを糾弾した。
裁判は原告側が罪を問い、被告側が否定、弁明、釈明する。
今回の裁判はイレギュラーなのだと、裁判官の説明でフィーナとマサトは知った。
ガブリエフ、サリア達は知っていたようだが。
根本はカイルとフィーナの話である。
互いが納得済みなら、何の問題もない。
――しかしカイルは王族。
その王族が、しかるべき手順を踏まずに国外へ渡航。
お忍びだったため、護衛も少ない。




