9.貴族裁判 2
人でなくネコの姿なのだなと思いながら、フィーナは肩に乗ったマサトに声をかけた。
「今までどこにいたの」
(――『それはこっちのセリフだっての。
何度呼んでも返事しなかったのそっちだろ。
反応無いし、気配もたどれないしで居場所すらわからなかったんだ』)
(――「そうだったの?
疲れがひどくて寝てただけなんだけどなぁ」)
(――『寝てたって……体、大丈夫なのか?』)
(――「どうして?」)
(――『連行されて三日たってんだが。
食事とか、まともな世話、してくれたとは思えないんだが』)
「三日!?」
思わぬ日数に、思わず声を上げたフィーナは、周囲の注目を浴びて、慌てて手で口を覆った。
三日。
その間の記憶がまるでない。
牢らしき場所に連れられ、半日たつかたたないかと思っていた。
連行されて、飲食した記憶がないのだが――。
食はともかく、水分をとらなくても大丈夫だったのか。
不思議なほど、今も喉の渇きはない。
飲食物は提供しても、自ら摂取しないなら、そのまま下げそうだが。
自身の体調を不思議がるフィーナは、建物内に響いた甲高い木槌の音で、一旦思考を止めた。
「静粛に」
言いながら数度、木槌を叩いたのは、裁判官席の中央に座る中年の男性だ。
恰幅のいい、灰色のくせ毛の男性は、言いながら建物全体を見渡した。
フィーナも居住まいを正す。
マサトも足下へ降りた。
改めてフィーナは建物内を視線だけで見渡した。
上級裁判所。
建物はそう名打たれているが、審議される内容から別名が主流となっている。
貴族裁判。
貴族籍が関与する事案を審議する場と聞いている。
刑法民事、どちらでも使用される場だが、審議される内容によって、関係者が異なる。
貴族籍当人同士、加えて互いの弁護人で審議が終わる場合は小規模室を使用し、判定を下す裁判官も一人だ。
規模によって大中小の審議室を使い分け、裁判官も内容如何で一人二人三人と変化する。
(――『何でそんなこと知ってんだよ』)
意識下で上級裁判所がどういったものか、思い返していたフィーナの思考は、マサトにも届いていた。
(――「伝記で見たのよ。誰のか忘れたけど」)
裁判の仕組みが興味深くて覚えていた。
上級裁判所――貴族籍が論議する、自分には関わりの無い場所。
法廷での弁論での攻防に、ゾクゾクする高揚感を覚えた。
(まさか、そこに関わるとは思わなかったけど……)
思って、げんなりする。




