7.帰還 7
(疑われる自体が問題なのに)
人から疑われると「そういう人なのか」と、聞いた百人に数人、思うかも知れない。
それが先々、どう波及するか、誰にもわからない。
聞いた者自身もわからない心の奥に、ずっと残る可能性だってある。
それが後々、フィーナに影響を及ぼすかもしれない。
(フィーナでなければ……)
フィーナが庶民でなく、端くれでも貴族だったら。
「家名を汚された」
と、カディスに抗議できる。
家名は貴族の上下関係なく――実際は上位下位で違いが発生するが――抗議できるほど重んじられるものだ。
フィーナは市井出身者だから。
――庶民だから。
カディスも「名誉毀損」で逆に訴えられる危険がないと踏んでいるのだろう。
サリアを含め貴院校関係者は、フィーナ連行を止めきれなかった。
貴院校関係者が留置所に送られたフィーナを案じる中。
サリアは即座に行動を起こした。
最初に兄と父への面会を望む手紙を送った。
それは緊急時、家族内、独自の機構で送付できるものだった。
サリアがこれを使うのは初めてだ。
父と兄に連絡をとる足で、貴院校教師――全ての事情を知る教師陣――と、内密の話の場を打診し、同時にカイルの現状を、教師を通して確認した。
それでわかった事実は以下の通りだ。
カイルは帰寮後、フィーナと同じく激しい疲労で寝込んでいる。
カイルの帰寮は関係各署に通達されたが、面会者はおろか、打診もないという。
(カイル帰寮が確かか、確認せずに動いたってこと――?)
それほど確信していたのだ、カディス・フォールズは。
なぜ。
と、サリアは戸惑う。
カイル帰寮の通達があったのは、貴院校関係者で、限られた人のみだ。
カディスは関りのないはずだ。
(ブリジット?)
カディスの娘、ブリジット。
彼女が父に情報を与えたのかと一瞬思ったが――「あり得ない」とサリアは思い直した。
カイルとフィーナ、二人の帰寮は内密に行われ、知っているのも限られている。
ブリジットはその中に含まれていない。
カディスの情報源に疑念を抱きつつ「緊急」だからと、自宅帰省を申請した。
事情を知る教師陣は、即、申請を受理した。
そうしてサリアは自宅へ急行し、父と兄に助力を請いに行ったのだった。




