4.帰還 4
カディスが敵意を向けるとしたら、それはガブリエフにだ。
サリアは関係ない。
娘のサリアを快く思えない心情はわかるが、それを所かまわず表に出すなど、人としてのあり方も疑われる。
サリアもカディスの性格を理解しているのだろう。
カディスの発言に動じる様子はなかったが、状況を理解できず、戸惑っていた。
カディスは「ふん」とサリアを鼻白むと、「そこをどけ」と顎で指す。
「我々は犯罪者を拘束しに来た。
かばい立てすれば、貴様も拘束する」
「犯罪者?」
眉をひそめるサリアに、カディスは愉悦の笑みを浮かべた。
事情を知らないのかと、優越感に満ちた笑みを。
「そこのフィーナ・エルドだ。
カイル殿下に甘言を用い、国外に連れ出した罪――。
身に覚えがあろう?」
◇◇ ◇◇
「カイル……殿下に?」
フィーナもサリアも戸惑った。
カディスの真意がわからない。
わからないものの、二人ともカディスの発言に息をのんだ。
――国外へ連れ出した――
極秘裏のはずなのに、カディスに知られている。
その点に驚いた。
カイルは自ら望んでフィーナ達に同行した。
「甘言を用いて」などいないのだが――。
(なんてこと――)
カディスの思惑に勘づいたサリアは歯がみする。
父のガブリエフの側にいると、聞き耳を立てなくても様々な情報が聞こえてくる。
そうした情報を日々、耳にしていると「駆け引き」もわかるようになった。
わかるだけだ。
仕掛ける腕はない。
カディスの先制は、カイルの言い分を防いでいる。
第二王子カイル、彼の同窓生、庶民のフィーナ。
フィーナがカイルをそそのかし、本来、必要な手段を経ずに国外へ連れ出した――。
そうカディスは言っている。
カイルの他国渡国を、本人が「自分が望んだことだ」と周囲に宣言するのと。
第三者が「惑わされ、正確な判断ができなかった」と吹聴するのでは。
最初に聞いた印象が強く残る。
カディスの発言で、カイルが出国したのは「フィーナにそそのかされたから」と印象付いた。
ここはセクルト貴院校だ。
国内の主要な貴族の婦女子が生活する場である。
誰が何を聞いているか、聞こえているか――。
カディスはそれも考慮した上で、兵の乱入という非難を浴びる所業を用いたのだろう。
寮内の混乱は、寮内の婦女子の関心を集め、好奇心、保身、状況把握――。
様々な観点から、フィーナ達の動向を注視した。




