177.それぞれの事情 61
嬉しげに『くふふ♪』と、口の端をゆるみっぱなしにはしていたが。
『いや~。
無理っぽい感じしてたから心配だったけど。
結果オーライってことだね♪
大丈夫大丈夫。
セレ坊、あれでも頼りになるから。
ど~んと任せとけばいいのよ』
「え……あの……」
『そうとなれば善は急げっ!
セレ坊に伝えなくちゃ!』
「え!?」
本意が含まれないプリエラの言葉を、シルフィーは勘違いしている。
プリエラは慌てて止めようとしたが、シルフィーは飛び立ち、間に合わなかった。
(誤解されてる……)
思って青ざめた。
プリエラとしては「セレイスの考えを聞いて、必要ならば協力したい」と言おうとした。
騎士団でのセレイス、舞踏会でのセレイス。
彼を見て、武芸に嗜みのある女性が好みだろうと思った。
プリエラを想うのも、その点をクリアしているからだろうと。
アルフィード――クラウド――セレイス――。
公に出来ない関係性を、プリエラも感じていた。
武芸を嗜み、ルーフェンスの巫女の概要も知っている自分なら、セレイスに助力できるのでは。
――セレイスの想いも、加味した上で。
言った後で、打算的だと気付いて後悔した。
戸惑い、困惑する間に、シルフィーは飛び立ってしまった。
プリエラが動揺することしばらく。
セレイスが、シルフィーの首根っこをつかんで、プリエラの元に戻ってきた。
シルフィーはしゅんとして、借りてきた猫のようにおとなしい。
おとなしいというより、気落ちしている。
「これが何ゆうたか知らんけど。
真に受けんといて」
眉間に皺を寄せ、セレイスはため息をついてそう告げた。
『ホントだもん……。
ウソついてないもん……』
シルフィーは襟口後ろを掴まれて、ぶらぶらと揺らされていた。
うつむいて口をとがらせ、セレイスに物申す。
シルフィーの発言に、セレイスはさらに眉を寄せた。
「プリエラが皇太子妃を望むなんて、ありえんやろ」
「え?」
反射的につぶやいて――プリエラは失言に気付く。
今の発言は。
否定が。
含まれている。
「は?」
気付いたセレイスも目を瞬かせた。
ぎくりと体を強ばらせるプリエラを。
驚きに目を見張るセレイスが凝視して――。
『だから言ったでしょ~~~~っ!!
この子もセレ坊好きだって~~~っ!!』
「っ!!!
言ってませんっ!!」
セレイスに襟首後ろを掴まれながら騒ぐシルフィー。
シルフィーの発言を、プリエラは即座に否定したが――。
顔が熱を持っている自覚はあった。
戸惑い、うろたえた自覚もあった。




