174.それぞれの事情 58
そう考えての手段だった。
逃亡を手助けしたのは、アルフィードの劣悪な環境にいたたまれなかったからだ。
セレイスとプリエラの、同意見だったとしたい。
彼の対策は自身の保身より、アルフィードの身を案じてのものだ。
話を聞いて了承したプリエラに、セレイスは安堵する。
「おおきに」
告げて、ぽん、とプリエラの頭に手を置いて、検問兵の元へ向かった。
そのセレイスの背を、プリエラはぼんやりと眺めた。
(セレイスが――皇太子――)
シルフィーを見ても、どこか絵空事のように思えて、実感がない。
騎士として、共に武術稽古した。
剣術体術、騎士道、互いに思うところを論議した。
――舞踏会では。
人目に付かないよう、隠れているところを見つけられて、世間話と――後で振り返って知ったが――参考書や規範に載っていない、夜会でのマナーや人付き合いの助言をくれていた。
最初は「面倒な人」と思っていた。
それが顔を合わせる機会が多くなって、他の人なら忌避する話も、セレイスとは気兼ねなく話せた。
――認めざるをえない。
舞踏会で、人目につかないよう隠れていたけれど。
――セレイスには見つけて欲しいと……。
彼には会いたいと、思っていた。
隠れていても、セレイスなら見つけてくれるから。
セレイスは見つけてくれるから。
他人の目がない場所で、会いたかった。
普段は粗野な騎士の恰好をしているけど。
舞踏会では――女性らしくない自分でも、それなりに着飾っているから。
――いつだったか。
いつものように、姉と連れだって入場した舞踏会で。
いつものように、気配を消して、そっと人目につかないバルコニーに隠れていた。
バルコニーは、人の目を避けれる場所なので、ひそやかな話をする男女もこっそり入ってくる。
そんな彼らにも気付かれない、バルコニーの隅に、プリエラは身を隠していた。
人に見られるのが嫌だった。
女性なのにひょろり背ばかり高く、体も顔も表情もまろやかさがない――。
小柄で快活、女性らしい華やかさがある姉とは正反対の妹。
それが周囲の評価で、事実だった。
(――誰も、私に気付かないで)
魅力の無い私を見ないで。
魅力の無い私にはかまわないで――。
そうした思いで、人目に付かない場所に隠れていたプリエラを、セレイスは見つけた。
――見つけたセレイスが……時々。
本当に時々。
プリエラを見て目を見張るのに気付いた。




