173.それぞれの事情 57
アルフィード達が国境を越えてしばらくしたころ。
検問兵の相手をしていたシルフィーが、セレイスの元へ戻ってきた。
「――何たくらんどるん?」
機嫌のいいシルフィーに、セレイスが眉をひそめる。
ちやほやされるのが好きなシルフィーだが、それが理由で検問兵の前に出てきたとは思えない。
セレイスの言葉に、シルフィーは頬を膨らませた。
『人聞きの悪い。協力してあげたんだから、そこは感謝するとこじゃない?』
「素直な善意ならそうするわ。
そうやない前例をいくつも見たさかいな。
疑いぶこうなってまう」
セレイスの言葉に、心当たりがあるのだろう。
シルフィーはむっすりと不機嫌顔で口をつぐんだ。
(……まあ、下心があったにしても)
「助かったのは事実や。ありがとさん」
実際、シルフィーのおかげで助かったので、セレイスは礼を告げた。
『わかればいいのよ』
シルフィーも機嫌を直して、セレイスの周りをくるくる飛んでいた。
そんなセレイスとシルフィーを、プリエラは戸惑い顔で見ている。
『――で?
あんたはどうすんの?』
プリエラの心情に気付いたシルフィーが、顔前にすいっと移動して訊ねる。
今後の対策を、思考力フル回転で考えていたセレイスは、プリエラの心情に気付いていなかった。
シルフィーの声で、我に返る。
今回の件で、父である皇帝、皇帝と関わりのあるクラウドから、何かしらの動き、聴取があるはずだ。
言い訳とつじつま合わせに、意識の全てを向けていたため、プリエラへの配慮を欠いていた。
シルフィーの声で我に返り――同時に思い至る。
プリエラとも話を合わせておく必要があると。
オーロッドとの口裏合わせは諦めている。
オーロッドは融通が利かない。
利かない、と言うより、利かせる対処が出来ない。
お世辞を含め、思ってもいないことを口に出来ない――ウソの類いを苦手としていた。
オーロッドは無理だが。
せめてプリエラとは話を合わせておきたい。
こちらの優位に話を進めたい。
「すまんけど、話、あわせてもらえんか?」
館での、アルフィードの衰弱はプリエラも目にしている。
セレイスはアルフィードが置かれた環境の劣悪さを理由に、逃亡の手助けをしたと話すつもりだと言っていた。
――ルーフェンスの巫女。
その存在と役割は知らなかった前提で。
クラウドにはばれるだろうが、その他大勢がいる前では「ルーフェンスの巫女」を公にはできないだろう。




