172.それぞれの事情 56
オーロッドの基準は明確だ。
従うべき相手に従う
セレイスは皇太子だが、今現在、建前としてはオーロッドの配下だ。
オーロッドには建前やお世辞、暗黙の了解は通用しない。
今回で言えば、オーロッドは上役の命によりクラウドに従った。
セレイスが皇太子と知っていても。
便宜上でも自分の配下なら、上役ではないから。
「融通きかんのは知っとったが……世渡り不器用すぎやろ」
セレイスは歯がみする。
プリエラは、セレイスとオーロッドの意向は同じだと思っていた。
セレイスがオーロッドに、アルフィードの件を隠している風でもなかったからだ。
オーロッドは、セレイスの画策を、自ら進んで他に申告はしない。
セレイスの画策を明るみにしないが、セレイスに忠誠を誓うわけでもない。
その都度、優先順位に準じて行動する――。
それがオーロッドだ。
「それより、はよ済まそか」
セレイスは、アルフィードが持つ書面の不備事項がないかを確認して、足早に部屋を出る。
戸惑いながら、プリエラ、アルフィード、フィーナが続いた。
「約束は守るさかい」
約束。
セレイスの言う「魔窟」の、有益な情報があれば、アルフィードの自国帰還を手助けする――。
「あの情報で――よかったのですか?」
検問所へ向かう道すがら、訊ねるアルフィードにセレイスは答える。
「期待以上や」
(まさか本人に会うとは、思うてへんかったけどな)
検問所では、検問兵とシン達が一色触発の剣呑さで対峙していた。
奥の扉から出てきたアルフィードとフィーナに気付くと、シン達は驚き、背後にいるセレイスを訝る。
「ほら。さっさと行きいや」
セレイスはアルフィードとフィーナの背を押し、シン達へと押しやる。
アルフィードとフィーナは戸惑いながらもセレイスに従った。
シン達も同じく戸惑ったが、追い立てられた上「はよ行かんとナシになるで」と急かされ、キツネにつままれた心地で検問所を後にした。
騒ぎ立てる検問兵にセレイスは、シルフィーを再度呼んで、皇太子と知らしめる。
――正直。
シルフィーが呼び出しに応じてくれるとは思っていなかった。
反応がなければ、プリエラを証人として身分を証明するつもりだった。
シルフィーを見た検問兵達は興奮し、セレイスを皇太子と認める。
そうしてセレイスがアルフィード達への気を削いでいる間に、サヴィス王国の面々は、検問所を後にした。




