171.それぞれの事情 55
幸か不幸か。
シルフィーを神聖視するアブルードでは、セレイスの付加価値は一気に増した。
従兄弟達の一件は、どこからともなく知れ渡り、結果、セレイスの身を守った。
セレイスにちょっかいだすと、手痛い目にあう――。と。
人にいじられるのは嫌だけど、自分はいじりたい
シルフィーのそうした思いを、セレイスも感じていた。
過去に思いをはせていたセレイスは、シルフィーの気ままな性格を再度認識した。
――気になるのは。
シルフィーもクラウドを知っていたことだ。
今回、クラウドが引いたのは、シルフィーに準じたからだろう。
シルフィーとクラウド――どのような関係なのか。
思いつつ、セレイスは床に落ちた、紺色の貴石のペンダントを拾った。
セレイスが拾ったペンダントを、フィーナ、アルフィード、プリエラが、それぞれ思うところがありつつ眺める。
あの時。
プリエラがアルフィードに渡そうとしたペンダントは、フィーナに阻害された。
床に落ちたペンダントが光を放ち――その後、クラウドが来室した。
タイミング良すぎるクラウドの来室に、フィーナもアルフィードもプリエラも疑念を抱いていたが、何も言えなかった。
あの光がアルフィードの所在を知らせたとしても、どのような手段を講じたのか、方法がわからない。
それ以前に――。
「これ、誰からもろた?」
拾い上げたペンダントを眺め、セレイスがつぶやく。
問いはプリエラに向けたものだった。
プリエラは小さく息をのんで答えた。
「オーロッド様から……アルフィード嬢に渡すようにと……」
セレイスが、アルフィードの祖国帰還に協力する旨を聞いた翌日。
オーロッドから渡されたペンダントだった。
「かの令嬢に渡すように」
言われて渡されたペンダントだった。
これまでの行程から、セレイスとオーロッドの親しさを感じていた。
ペンダントは、セレイスも承知事項だと思っていた――が……。
「――違ったの、ですか」
思い至って、プリエラは愕然とした。
――その兆しは、時折感じていた。
仲がいいと見られるオーロッドとセレイス。
寡黙なオーロッドは、自分の仕事を淡々とこなしていく。
――自分の仕事を、淡々と。
セレイスは皇太子だが、オーロッドの直属上司ではない。
皇太子セレイスには、便宜的に接しているだけだ。
正規のルートで命を受ければ、セレイスの意向と異なっても受ける。
セレイスは注意を払う皇族だが、従うべき相手ではない。
オーロッドが――クラウドから命を受けたとしたら。
それはセレイスより重要度の高い命としたのだろう――。




