168.それぞれの事情 52
アルフィードもプリエラもフィーナも、シルフィーの存在に押されて、何も言えず成されるがままだ。
シルフィーがプリエラを指さして『お気に入り』と言ったときは、セレイスが「余計なこと言うな」と手を伸ばしてシルフィーを捕まえようとした。
シルフィーは『おっと』と、ふわりとセレイスの手を避ける。
避けざま、フィーナの元へ行く。
シルフィーはフィーナを顔前でのぞき込んだ。
驚くフィーナは、立ち尽くし、目をしばたたせる。
『――で。
あんたが一番訳わかんないんだけど。
なんでそんな途半端なの?』
「中途――半端?」
『中途半端で――……。
ん~。なんか面倒。
できるのに出来ない子。
……あれ? もしかして洗礼受けてない?
……ってか……うわ~。
よく見たら……わ~。
えっとごめん。
今言ったのナシ。
忘れて。
恨まれるの勘弁だから。
……やば……。
余計なこと言っちゃったかも……』
「え? えっと…………。
え?」
困惑するフィーナを置いて、シルフィーはひらりとセレイスの肩口に戻った。
セレイスはシルフィーを捕まえようとするが、シルフィーはひらりひらりとかわし続ける。
そうしながら、シルフィーは『それより』と、セレイスに訊いた。
『大丈夫なの? アイツに背いたみたいだけど』
「アイツが誰か、知っとんのか?」
『知ってるけど――セレ坊が知りたい意味では知らない。
人の役職なんて、あたし達に関係ないもん』
「セレ坊?」
首をかしげるプリエラに、セレイスは肩を落として息をついた。
「その呼び名、やめぇ言うたやろ。
子供やないんやし」
シルフィーはセレイスを「セレ坊」と呼んでいるようだった。
幼少時の名残だろう。
シルフィーは「い~」と口を曲げて反抗する。
このまま口論しても落としどころがないと判断して、セレイスは質問を続けた。
「今までそないなこと、言わんかったやろ」
『聞かれてないもん』
きっぱり言い切るシルフィーに、セレイスの口を閉ざす。
確かに、訊かなかった。
シルフィーがクラウドを知っていると、思いもしなかったから。
『気にしなくていいじゃん。
セレ坊には関係ないんだからさ』
「関係ないわけないやろ。
確実に目ぇつけられたはずや」
『だから。
今のセレ坊には関係ないんだから、心配するだけ無駄なの』
「――は?
どういう意味や?」
『さぁね~♪
どういう意味だろうね~。
けど、ホント。
心配するだけ無駄だよ~』
『きゃははっ♪』――と。
陽気な笑い声を残して、シルフィーはふっと姿を消した。




