167.それぞれの事情 51
彼が――セレイスが……皇太子なら。
(あれは……どういう意味……?)
困惑、混乱、混迷――。
戸惑うばかりのプリエラの視界が、不意に陰った。
(…………?)
不思議に思って顔を上げると、シルフィーが間近でプリエラをのぞき込んでいた。
「な……っ! えっ!?」
驚き、プリエラは後ずさる。
驚きと――おとぎ話の中での存在だった、風の精霊シルフィーを間近に見て、気持ちが高揚した。
鼓動は早鐘を打っている。
『ふ~~~ん……』
プリエラをのぞき込んだシルフィーは、ふよふよと宙に漂いつつ、思うままの姿勢で、くるくる回っている。
目が合ったとき。
こちらを見ていたシルフィーは。
――プリエラを見定めようとしていた。
(値踏み、されてる……)
思って、きゅっと胃の底が収縮する。
それは――主に舞踏会で受けていた眼差しと似ていた。
舞踏会に参加した当初。
同年代、年上、年若の世代との交流の中、プリエラは参加する女性達と真摯に接していた。
カドが立たない言い回しに気をつけつつ、諫めるべきだと感じたときには、遠回しに忠告した。
それが彼女らの為だと思ったからだ。
初めは上手く対処できていると思っていた。
――そうでないと気付いたのは、通りすがりの通路で聞いた、令嬢達の話からだ。
――注意なんて、何様のつもり
――自分はヒョロヒョロして棒きれみたいで魅力ないのに
――あの子の姉も、世間知らずよね。皇太子妃狙い公言して
――妹も妹なら、姉も姉ね
少し前に、和やかに話していた令嬢達の皮肉めいた話に、プリエラは頭が真っ白になった。
敵意も悪意も、露ほども感じさせなったというのに。
人の心が――社交場のやりとりがわからなくなって以降、プリエラは隠れるようになった。
それが余計、騎士への傾倒に繋がった。
社交場でも時折遭遇した、相手を値踏みする視線。
シルフィーは堂々と、正面からプリエラを眺めている。
頭から足の先まで、無遠慮に何度も往復して。
かと思うと、セレイスの元へ戻る。
『あんたが選んだにしては上出来じゃん?』
「え?」
「うるさい」
シルフィーの言葉に、プリエラは首をかしげ。
セレイスはシルフィーの額を、指でピンと弾いた。
『あたっ!
なにさ!
助けてあげたのにっ!
あたしが居なきゃ、連れてかれたの、あんただったでしょ!』
「よう言うわ。
面白がっとうたくせに」
『面白いに決まってんじゃん!
こんだけ変わり種揃ってんだから!
アイツの秘蔵っ子一族の末裔でしょ?
んで、あんたのお気に入りでしょ?』
アルフィード、プリエラを指さしながらシルフィーが話す。




