166.それぞれの事情 50
国の中枢機関に属するクラウド。
皇太子セレイス。
どちらが上位か。
どちらに従うべきか――。
「どうすべきか、皆までいわんともわこうとるよな?」
シルフィーを、ぼう、と眺める検閲兵にセレイスが告げる。
セレイスの声に、我に返った検問兵達は、クラウドを取り囲んだ。
「――御同行、願います」
セレイス――皇太子の命に従ったとしても、クラウドが中枢機関に属する貴族であることに変わりは無い。
捕縛はせずに、連行した。
クラウドは渋面で何か言いたげにセレイスに目を向けたが――。
セレイスの肩に座り、にっこりと微笑み、「バイバイ」と手をふるシルフィーを見て、口を閉ざしたまま検閲兵に従った。
クラウドが離れたのを見て、セレイスが大きく息をつき、つられてアルフィード達の体のこわばりも溶けた。
アルフィード連行の危機は脱したが――。
(俺の危機は継続中やな)
思いつつ、肩に腰掛けていたシルフィーが、興味の向くまま、アルフィードやプリエラの側で飛び回っているのを眺めていた。
◇◇ ◇◇
皇族に子が生まれ、名が公表されると、あやかって、同年生まれた同性の子に、同じ名を付ける。
それは貴族庶民関係ない、アブルードの風習だった。
皇族の名は、幼少から広く知られている。
当人には危険を伴う慣例だったので、皇族は公表した名とは別に、15歳の成人まで、幼名ですごした。
家族とごく近しい者しか知らない名だ。
成人するまで、公の場にも出ない。
皇太子の名がセレイスだと、プリエラも知っていた。
オーロッドがセレイスを連れてきたときも、皇太子と同年なので、あやかって付けた名だと思っていた。
皇太子と同年は、同名が増える。
学び舎や近場で同名が存在する場合、ファミリーネーム、およびミドルネームで呼び分けていた。
近辺に同名がいなかったので、セレイスと呼んでいたが――。
(皇太子――?)
「まさか」の思いは、風の精霊、シルフィーが「本当」なのだと示す。
皇太子と認めたものの、これまでの日々が走馬灯のごとく脳内を駆け巡り、困惑した。
皇太子と知らず、同僚として接してきた日々。
皇太子に対しては許されない言動も、たくさんあったはずだ。
(――「俺はプリエラ・ユースヴォートに惚れとる」)
持て余した言葉を思い出し、困惑はさらに深まった。




