164.それぞれの事情 48
(そんなこと――)
考えるまでもなく、決まっている。
中枢部所属のクラウドに、禁軍でもない一兵のセレイスが、敵うわけがない。
――けれど。
答えると、アルフィードはクラウドの手中に落ちる。
逆らえば。
――指揮系統に背いたとして処分されるだけでなく、家族に迷惑がかかる恐れもある。
冷静に考えれば、すぐに答えは出た。
出生からこれまで、共に過ごしてきた家族か。
一月あまり、共に過ごした者か。
――選ぶなら、どちらか。
キツく目を閉ざし、息を吐く。
セレイスに味方しても、上手く逃げれるとは思えない。
この場は従って――従うフリをして、アルフィードを逃がす手段を考えよう。
そう考えて――セレイスに目を向ける。
わずかに視線が交差する。
プリエラが口を開こうとしたとき。
「――そない言うんなら、示したるわ」
プリエラを遮って、セレイスが告げる。
続けてセレイスは小さくつぶやいた。
なんと言ったか、その場の誰も聞こえないほどの小声だった。
聞こえなかったものの、誰よりも先に、クラウドが気付いた。
ハッと視線を上げた先――セレイスの右肩上に、渦巻く光の砂流と共に、爽やかな風が四方に吹き抜ける。
風の流れ、光る砂流が止まった時には。
白い肌、緑の髪、緑の瞳、緑の衣服。
手の平ほどの少女が、セレイスの肩に座っていた。
◇◇ ◇◇
――どちらが上位か示せ。
クラウドの言葉にプリエラは困惑していた。
どうしたらいいか。
考えた先に出された答えを、告げる前の表情でセレイスは察した。
プリエラはイレギュラーを良しとしない。
制度には理由があるはずだから、従うべきだと考えている。
それは彼女の根幹に由来するので、セレイスも否定する気も非難するつもりもない。
おそらくプリエラは。
この場はクラウドに従って、時期を見定めてアルフィード逃亡の手助けをしようと考えたはずだ。
手段の一つとしてあり得るが――無理だろうとセレイスは予想した。
逃亡を手助けするには「プリエラが同行」しなければならない。
クラウドはそうしないだろうと、セレイスは感じた。
単独でアルフィードを連れ帰るほうが楽に決まっている。
どちらが上位か 示せ
セレイスも懐中時計は持っているが、仮の――オーロッド所属としてのものだ。
本来の地位を示すものではない。




