163.それぞれの事情 47
プリエラが諫めた理由がわからず、セレイスは怪訝な表情を浮かべる。
「この方は――」
言って、チラリとクラウドに目を向けるプリエラ。
彼女の視線を追って――視線の先に、懐から除いた懐中時計を見たセレイスは、プリエラの言いたいことを悟った。
懐中時計は持つ者の地位を表す。
国の中枢部に属すると示していた。
(どこまでホンマか、わからんけどな)
偽装かと思ったが、クラウドに、それらしい地位を与えているのではと考え直す。
限られた者しか知らない部署をあてがわれているのでは、と――。
心配するプリエラに、セレイスは肩をすくめた。
「そない言われても、俺、この御人、知らんし」
「知らないからと言って――」
「俺が。知らんと言ったら知らんのや」
プリエラは困惑したが、クラウドにはセレイスの主張が伝わった。
クラウドはセレイスの素性を知っている。
セレイスは立場上、中枢部の役職者は把握していた。
クラウドの懐中時計は、中枢部の人間だと示しているが――セレイスは彼の針の形を知らない。
所属部署がわからない――。
人目に付くのは、懐中時計の外見と文字盤だ。
それをぱっと見、中央か地方か末端か、判断する。
クラウドの懐中時計は中央のものだ。
それも中枢部を示している。
プリエラが恐縮するのはわかるが。
(なめんな)
いやいやながらも帝王学をたたき込まれた身としては「どうせわからないだろう」と馬鹿にされた気分だ。
セレイスの意図はクラウドにも伝わった。
「ふむ」と考える表情をのぞかせて「では」と続ける。
「ディーザに聞け」
(――――っ!)
思わぬ切り返しに、セレイスは息をのんだ。
ディーザ。
それは現皇王――セレイスの父親の幼名だ。
公には明かされない、身内しか知らないはずなのに。
現皇王の幼名を口にすることで、クラウドはセレイスに牽制する。
そうした名を知るほど皇族に近しいのだと。
(どこまで知っとるんや)
知らない相手に、素性を隅々まで知られる気味悪さを感じながら、セレイスは食い下がった。
「そんなん、今すぐは無理やろ」
「そちらが引き下がらないのなら――。
現場の判断に任せよう」
言って、クラウドは検問所兵とプリエラに目を向けた。
検問所の兵は、懐中時計の細かな階位を知らない。
知っていそうなプリエラに、目を向ける。
――この場での論点は「どちらが上位か」。
上位の指示に従うのが筋だ。




