162.それぞれの事情 46
現実は――知らないことばかりだ――。
「今一度問う。
そなたの上司は誰だ?」
「――オーロッド様に……ございます」
「オーロッド・ウィグネードから、たくされたのであろう?」
言ってクラウドが、フィーナが弾き落としたペンダントを掲げる。
プリエラは当惑しながらもうなずいた。
それらのやりとりを見たアルフィードは気付いた。
セレイスと、情報提供の話をしたとき。
オーロッドはその場に居なかった。
プリエラはセレイスの本当の素性を知らない。
オーロッドは知っているようだが――セレイスの同行は極秘だ。
セレイスとアルフィードのやりとりを、オーロッドは知らない。
オーロッドはセレイスの配下でなく、軍に属する。
軍からオーロッドに「アルフィード捕縛」の話がくれば、従わざるをえない――。
アルフィードは、セレイスとオーロッドが一枚岩でないのではと、このとき思い至る。
当惑するプリエラに、彼女の助力は望めないとアルフィードは察した。
プリエラにはこの国での立場があるのだから。
どうこの場を乗り切ろうか――。
考えている時だった。
「そこの三人、こっちへ渡してもらおか?」
プリエラに遅れて到着したセレイスが、いつの間にか側まで来ていた。
◇◇ ◇◇
セレイスの後ろには検問の兵が続いている。
止めてもお構いなしに進むセレイスに困っているようだった。
セレイスが貴族とわかるので、強引に止めれない。
国境の検問兵は、庶民出身者でまかなわれていた。
彼らは、貴族との不必要な諍いを避ける傾向にあった。
「セレイス――」
声の方を見たクラウドが、眉間に皺を寄せる。
名を告げられ、セレイスは驚きに目を見張った。
驚きもつかの間、すぐに皮肉を含んだ笑みを浮かべた。
「俺のこと、知っとるんか」
セレイスはオーロッドの隊の一員だが、それは非公式だ。
オーロッドの隊にしか顔を出さないので、他の隊、軍の者もセレイスを知らない。
それなのにクラウドは一目見てセレイスと知った。
セレイスはアルフィードに目配せした。
――彼がクラウドか。
眼差しの意図を理解して、アルフィードはうなずく。
疑念が確信となる。
「も一度言うけど。
そこの三人はこっちで引き取るさかい、渡してもらえんか?」
「従う義理がない」
きっぱりとはねつけるクラウドに、セレイスのこめかみがピキリと強ばる。
「穏便にすまそうしとんのや。
言うこと聞けやボケ」
「セレイス――っ!」
セレイスの発言を、プリエラが諫めた。




