161.それぞれの事情 45
アルフィードの手をつかんで、フィーナは部屋から飛び出した。
(――マサトマサトマサトっ!!
早くこっちに来て!!
助けて!)
来た通路は覚えている。
逆をたどれば、みんなの所へ行けるはずだ。
早くみんなと合流したかった。
フィーナとアルフィードだけでは、太刀打ちできない――。
通路を走る二人の前に、するりとキツネが現われ、立ちはだかる。
牙をむき出して威嚇するキツネに、フィーナもアルフィードも足を止めた。
(従魔――)
クラウドに仕えるものだろう。
どう凌ごうか――。
考えている間に、クラウドに追いつかれた。
「お待ちください!」
同じく、アルフィード達を追ったプリエラが、クラウドに声をかける。
「私も、命を受けています。
そちらの書面と内容が相反するので、確認する時間をいただけませんか」
時間稼ぎだと――フィーナ達にもわかった提言だ。
クラウドもプリエラの本心を察して、懐から、首にかけた鎖を取り出す。
銀の懐中時計をかざし、プリエラに告げた。
後に知ったが、時計は国の機関に属する者の、身分証代わりとなる物だった。
時計の色形、文字盤の色、長針の色と形、短針の色と形、見える歯車の色――。
それらで所持する者の所属部署、地位を示している。
クラウドが持つ時計――銀の懐中時計は。
プリエラには所属部署はわからないものの、中枢部に関連する者が所持するとの知識はあった。
「貴殿の上役は誰だ?
オーロッド・ウィグネードか?
他の者か――」
「それは――……」
「――セレイスか……」
口ごもったプリエラに、クラウドがため息交じりにつぶやく。
クラウドの言葉に、プリエラは息をのんだ。
セレイスの名が出てくるとは思わなかった。
オーロッドも自分もセレイスも。
軍の中では下位に属する。
国の中枢部に属する方が、自分たちを知っていると思わなかった。
オーロッドとセレイスは、プリエラから見ても不思議なほど仲が良い。
――よく行動を共にするといった、一般的な仲の良さとは異なるのだが――オーロッドもセレイスも、他の者に見せない表情、言動を、互いには見せていた。
互いに信頼している彼らが、プリエラはうらやましかった。
だから。
実力で評価してくれるオーロッドを尊敬し。
実力のみでのし上がり、金銭、縁故をちらつかせて、高評価を得ようとはしないセレイスを、快く思っていた。
共に過ごす時間が多くなる中。
彼らの全てを知ったつもりになっていた。




