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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第二章 セクルト貴院校
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33.学年寮長【伴魂 後編】


 フィーナに促されるまま、ラナは自身の伴魂を両の掌に乗せて見せた。


 ぐったりと体を横たえる伴魂は、見ているだけで痛々しい。呼吸も細く、衰弱の度合いがひどいのが伺えた。


 フィーナはラナと彼女の伴魂を見比べた。そして気になっていたことを口にした。


「ラナ、あなたは大丈夫なの?」


「私……?」


「気分が悪かったり、めまいがしたりとか……こう、体の中がざわめく感じとか、ないの?」


 なぜ自分の体調を尋ねられるのか。ラナは目を瞬かせながら首を横に振った。


「そう……。いい伴魂ね」


「え?」


「伴魂は、主の魔力が何よりの生命の糧なの。

 傷ついたり、体力が落ちたりなどして、いつもより魔力が欲しい時は、主からもらうものだけど……。そうした時、主はいつも以上の魔力を奪われるから、気持ち悪くなったり、倒れたり。体調に影響があるはずなんだけど……。

 ラナがそうならないってことは、この子が魔力をもらおうとしていないってこと。自分がつらいのに、ラナに負担をかけたくないのね」


「っ! じゃあ、私の魔力をいつもより多くあげれば、この子よくなるの!?」


「おそらくは……」


「どうすれば!?」


「伴魂がもらおうとしなければできないから。

 いつもより少しだけでいいから多く魔力をもらってと話してみて。このままだと伴魂が危ないから、それは嫌だからと訴えてみて」


 フィーナの話を聞いて、ラナはすぐに両手に伴魂を包んで、念じるように目を閉じた。


「なぜそんなこと、知っているの?」


 驚いた響きをのせたテレジアの声に振り向くと、教師陣も含めて同様の表情を覗かせている。


 また常識はずれのことをしでかしてしまったと、フィーナは内心、舌打ちしながら、知らなかった面々に驚きもあった。


 何かの話の折、アルフィードもオリビアも経験したことがあると聞いていたので、そう珍しいことではないと思っていたのだが。


「私の伴魂がひどく衰弱した時、経験しました。私も伴魂も加減がわからず、魔力を取られすぎて、数日間、寝込んでしまいましたが」


 フィーナの話に「本当なのだろうか?」と、ざわめく教師二人と寮母に、テレジアが小さく息をついて「確かです」と答えた。


「騎士である兄から話を聞いたことがあります。……まさか一般の者で経験者がいるとは思っていませんでしたが」


「大丈夫なのですか? 命が危ういほど、魔力を取られたりは……」


 ラナを心配する教師に、フィーナは「それは大丈夫です」と答えた。


「主がいなければ、伴魂も生の糧を失ってしまいます。加減はわかっているはずですし、ラナの伴魂では人の生命を脅かすほどの魔力は必要ないはずです」


 そうした話をしたとき、ふらりとラナの体が揺らいだ。


 側にいた教師が、倒れそうになるラナを抱きとめる。


 ラナは青い顔をしていたが、意識はしっかりしていた。


 手の内の伴魂も、まだ傷は癒えていないものの、細かった呼吸はしっかりとしたものになっていた。


 面々が安堵の息をつく中、ブリジットは不愉快そうに眉をひそめていた。


 そんなブリジットの様子とラナと同じクラスの潜めいた話を続ける女生徒を見て、フィーナは懸念を強くした。


「ラナ」


 青い顔のラナに、フィーナは声をかけた。


「あなたの伴魂は、どうして傷をおったの?」


「……それは――」


 やはり言いたくないらしく、口をつぐんでしまう。仕方なく、フィーナは可能性を口にした。


「獣の罠にかかってしまった?」


 フィーナの言葉に、青かったラナの顔が赤く染まる。恥ずかしさからだと想定できると同時に、罠にかかっての傷だと確信した。


 戸惑いをにじませる面々の中、ブリジットやひそめた話をしていた女生徒面々は、愉悦に口元を緩ませていた。


 そんなブリジットを視界の隅に認めながら、フィーナはラナに「恥ずかしがることではないから」と告げる。


「獣用にしかけた罠に、伴魂がかかることはないから」


「ええ。普通はそうですわね」と、ブリジット。


 彼女が同意するとは思わなかったが、フィーナの意図とは別の捕え方をしてのものだった。


「それなのに、獣用の罠にかかっただなんて……」


 侮蔑を含んだ物言いに、ラナは手の中の伴魂を包み隠すようにしながら、俯いてしまう。


(いちいち、うるさいな)


 ブリジットにそう思いながら「ですから」と続けた。


「ラナの伴魂は、獣を狙った罠でなく、伴魂を狙った罠にかかったのだろうと言っているのです」


「……え?」


 虚をつかれたのはブリジットだった。


 テレジア達もラナの伴魂が獣の罠にかかった為に傷を負ったのだ、勘付いていたようだったが、あくまでも獣の罠だと思っていたようだ。


 だいたい、セクルト貴院校内に獣を捕える罠など必要ない。その校内に罠があった。誰かのイタズラだとしようとしたのだろう。


 ……おそらく、ラナを快く思わない者の仕業だろうとは思っていたが「獣の用の罠に伴魂がかかるとは思ってなかった」と、悪ふざけが過ぎただけとの逃げ道も想定内だろう。


 それは「獣の罠」前提の話だが「伴魂の罠」となると、性質が数段悪い。


 伴魂は魂の伴侶。


 それを狙っての犯行となるのだから。


 フィーナの言葉に、ラナが置かれている状況や境遇を知らない女生徒がざわついた。


「校内に、伴魂を狙った罠があったというのですか?」


「もしかして、まだ他にあるのでは……?」


 自分の伴魂が危害にあうのではと、心配の声が複数上がる。


 焦ったのはブリジットと、ラナを快く思っていない女生徒たちだ。


 フィーナの言葉に、ラナは驚きで目を瞬かせた。


「本当、なのですか?」


「ええ。文献で読んだことがあります。

 獣の罠に伴魂がかかった話は聞いたことがないでしょう? 獣の罠に契約を交わした伴魂が簡単にかかってしまうのなら、そうした話をよく聞くはずです。

 伴魂は主の魔力を糧にします。他には強い魔力を帯びた食物は口にするそうですが、そうした物はどこにでもあるものではありません。

 そんな珍しいものを罠に仕掛けるのですから、伴魂を狙ったとしか考えられないでしょう。魔力が強い食物は、逆に普通の獣は忌避するそうなので。

 ……過去には、戦時中、伴魂を狙った罠が存在したようですが」


「そ、それは普通の伴魂の話でしょう!? その伴魂は普通の獣と同じく、木の実を食してましたわ! だから木の実につられて罠にかかったのでしょう!?」


 発言したのは、ラナを快く思っていない女生徒の一人だった。


 慌てた様子の彼女に、側にいる同様の生徒が、頷いて同意する。


「そのような伴魂だから獣の罠にかかったのではないのですか!?」


「――木の実は、どのように食していましたか?」


 フィーナの質問に、声を上げた女生徒は、口ごもりつつも答えた。


「それは……手渡しで……」


「ラナが、ですよね。他の人からもらったり、伴魂自身がとってきたものはありましたか?」


「それは……。人の伴魂に食物を与えるなど、ありえないでしょう?」


「そうですね。ラナが手渡したということは、ラナが普段から身近に持っていたのでしょう。

 身近に持ち歩いていると、物には魔力が少しずつ溜まっていきます。そうしたラナの魔力が籠ったものを、伴魂が食していたのでしょう。

 主の魔力を得るために、伴魂らしい行動ですよね」


 にっこり笑って告げるフィーナの言葉に、女生徒は顔色を無くして何も言えなくなった。


 続けてフィーナは女生徒に告げる。


「『木の実につられて罠にかかった』と教えていただき、ありがとうございます。

 ラナが話そうとしてくれないので、状況がわからず困っていましたから。

 傷を負ったにしても、深い切り傷か罠にかかったかでは、処置の方法が大きくことなりますから」


「え……」


 フィーナに礼を告げられて、発言した女生徒は戸惑いを滲ませている。

 礼を言われるとは思っていなかったのだろう。


「ただ……普通の木の実では罠にかからなかったでしょうから、ラナが持っていた木の実につられたのでしょうけど……。その木の実はどうやって得たのでしょうね?」


 不思議そうにつぶやくフィーナの言葉に、女生徒は完全に顔色を失った。


 女生徒の発言、フィーナの発言を聞いたテレジアが、ため息をついて『罠にかかった』発言をした女生徒に顔を向けた。


「あなたはなぜ、ラナの伴魂が『罠にかかった』と知っているのです?」


「そ、それは……そのような話をしていたのが聞こえたので……」


 その言葉に、驚いたラナは反射的に首を横に振っていた。


「私、誰にも話してません。――話せませんでした」


 獣の罠にかかったと思っていたラナは、恥ずかしさから誰にも話せなかったという。


 そして罠に関して話した女生徒に目を向けた。


「……木の実につられたのも、知りませんでした。私が気付いた時には、罠に捕らわれているだけで、餌となったものを持ってなかったし、側にもなかったので」


 罠の発言をした女生徒は、もう何も言えなくて、その場に立ち尽くしていた。


 立ち尽くす女生徒に、テレジアはしばらくするとため息をついて、座るように促した。


 罠を仕掛けたのが誰か。


 誰もはっきりと口にしないものの、事実は誰の目にも明らかだ。


 テレジアはラナにもう一度、よく考えるよう告げて、罠の発言をした女生徒らにも後で話を聞くと告げた。


「フィーナにブリジット。これからに関しては後日、日を改めて話します。その間、いつでも部屋を代われるように荷づくりをしておきなさい。部屋の変更は決定事項ですので」


 そうしてその場は、一応の終わりを迎えたのだった。


 後日。テレジアから呼び出しを受けたのは、十日ほど後のことだった。





学年寮長のカテゴリは、これで最後のつもりでしたが、次回も内容的には学年寮長かな。と思ってます。

タイトル、どうしようかな?

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