156.それぞれの事情 40
そんな彼女だったが。
セレイスの部屋へ消えた小鳥を見た時。
冷水を浴びたように意識が覚醒し、反射的に体が動いて――ベッドから飛び起きると、セレイスの部屋を激しく開けていた。
「プ――プリエラ?」
血相を変えたプリエラに、ベッドに腰掛けていたセレイスは驚く。
彼に構わず、プリエラはセレイスの手にある小鳥を凝視し、無遠慮に歩み寄った。
「ななな……なんやなんや。どうしたん?」
ずずずいっ。――と。
無表情で詰め寄るプリエラに、セレイスは手の内の小鳥をかばいながらのけぞる。
「――――なんです、それ」
「は?」
「何なんです? その黒い小鳥」
「こ――これは――」
「なぜ、あの方の気配がするのです?」
「あの方?
――って誰や」
「アルフィード嬢です。
なぜそれから気配を色濃く感じるのです」
なぜ? なぜ。 なぜ――。
血走った目で、背後に「なぜ」の語列帯を渦巻かせるプリエラに、彼女のただならぬ執念を感じたセレイスは「降参」して事情を話した。
アルフィードに「ルーフェンスの巫女」の情報提供を頼んでいたこと。
有意義な内容ならば、出国の手助けをするとも。
「出国」と聞いてプリエラも驚いたが――その方がいいだろうと思えた。
館でのアルフィードを、プリエラは知っている。
あのまま無理をさせられていたら――。
プリエラは自分を制する自信がなかった。
そう思いながらも、同時に不思議に思う。
「手助けなどして――大丈夫なのですか?
巫女の情報を得たいなど――」
セレイスとルーフェンスの巫女。
プリエラはオーロッドに今回の任を命じられるまで「ルーフェンスの巫女」もその存在も知らなかった。
オーロッドは「巫女は国の機密事項」と言っていた。
極秘裏の巫女と、セレイスの関連が見えない。
単なる好奇心――にしては、事が露見したときの危険が高すぎて、結果と対価が見合わない。
セレイスは苦笑して首をすくめた。
「そこは聞かんといて。
あんさんの為にも」
知ることで危険が及ぶ――。
そうほのめかすセレイスの意図を汲んで、プリエラもそれ以上は追求しなかった。
――が。
どのような連絡が来たのか、アルフィードは無事なのか。
アルフィードの状況は、しつこく追求した。
セレイスも危険のない部分は答えた。




