154.それぞれの事情 38
「――ごめんなさい……っ」
涙はこらえられたが、声は震えた。
アルフィードもプリエラの背に腕を回して抱き返す。
何も言わずに館を後にしたから、ずっと気になっていた。
せめて無事だと伝えたかった。
それが叶いホッとしたのもつかの間。
「別室を準備しています」
プリエラがそっとアルフィードに耳打ちする。
「え……」
驚くアルフィードにプリエラが続けた。
「頼まれました」
(――セレイス殿下)
アルフィードに調査を頼んだセレイス。
紙面で報告したが、直に聞きたいことがあるのだろう。
(けど――)
アルフィードは馬車を振り返って――シンに目を向けた。
どうすればいいか、アブルードを知っているシンが判断するのがいいと思えた。
アルフィードから話を聞いていた面々は、プリエラの容姿、やりとりから、彼女が誰か察している。
荷台からフィーナとカイルが身を乗り出し、心配そうに見ている。
アルフィードの懸念を察して、プリエラが続けた。
「大丈夫です。事情は聞いています。
出国手続きの手助けもしますので――申し訳ありませんが、あなただけ、別室に来ていただきたいのです」
出国の手続き、と聞いて、アルフィードはほっとした。
セレイスが手を回してくれるのだろう。
「――けど……」
シンに伺いを立てたいアルフィードは、すぐに返事をできない。
そこへ馬車を降りたフィーナが「お姉ちゃん」と駆け寄った。
「大丈夫?」
心配そうに訊ねながら、身を寄せて潜めた声で告げた。
「――伴魂伝いに話は聞いてる。
便宜図って早く通してくれるなら従えって。
私も一緒に行く条件で――」
(伴魂伝い?)
このときのアルフィードは知らなかったが、プリエラとアルフィードのやりとりは、小鳥の伴魂に伝わっていた。
小鳥の伴魂からシンが聞いて、無難な人選としてフィーナがアルフィードに付いた。
「姉?」
「妹も一緒でもいいでしょうか」
きょとんとフィーナを見るプリエラに、アルフィードが訊ねる。
つと、フィーナを見たプリエラは「害なし」と判断したのだろう。
すんなりと了承した。
それから検問待ちの列の横を進んで、高い石塀内部に作られた、一室へと案内される。
こじんまりとした部屋には、小さな机と向かい合わせの椅子が二脚、あるのみだった。
(あれ?)
セレイスがいると思っていたアルフィードは、キョロキョロと周囲を見渡した。




