153.それぞれの事情 37
シンは、フィーナに伝わったと知らない。
フィーナは複雑な気持ちで、シンから伝わってきたことを「なかったこと」にした。
知られたくないだろうと思ってのことだった。
一行は順調に国境検問までたどり着いた。
問題は、その後だった。
その日は、検問に長蛇の列が並んでいた。
なぜかと、シンが前方に並んでいた人に聞く。
「門が開かないんだ。
上官を待ってるとか何とかでな」
答えを聞いた誰もが、アルフィード捜索のためだろうと考える。
待っているのはリュカか、クラウドか――代わりの者か。
「――いざとなれば、わしがアルフィードを連れて振りきるが――」
シン達商団の前に、カシュートとゲオルクが並んでいる。
別個の部隊だが、同じ故郷のよしみで数日前から行動を共にしている設定だ。
ウソではない。
親族がそれぞれの部隊に分かれてはいるが。
検問待ちの理由を聞いて、申し出たゲオルクが、みなまで言い終わらないうちに、カシュートが、ゲオルクの胸元に笑顔で「ダンっ」と、裏拳を打ち付ける。
「余計なこと、せんでいーから。
仮にそうしたとして、じーさまの体力に、アルが耐えれないから」
あはは~。
と告げる表情自体は明るいが、底暗い闇を感じさせる雰囲気を纏っている。
強めの裏拳を胸にくらったゲオルクは咳き込み、カシュートの強い拒否を感じ、案を取り下げた。
とりあえず、このまま状況を見ることにした。
一刻もしないうちに、列が流れ始める。
検問所が開いたようだ。
ゆっくりだが進む列に安堵しつつ、近づく検問に緊張が高まりつつ。
そうした中、前方がざわめいた。
ざわめきは次第に後方へと移っていく。
激しい蹄の音が、次第に大きくなると同時に、聞こえる声もハッキリとしてきた。
「~~~嬢っ! エルド嬢っ!
居るなら返事をっ!」
女性にしては低い声だった。
声を聞いたフィーナ達が、警戒に身構える中。
一人だけ、嬉々とした声を上げる者がいた。
「プリエラ様っ!?」
叫びながら、アルフィードは隠れていた箱から飛びだす。
「え!?
ちょっ、お姉ちゃ――っ!!」
姉の、思わぬ行動に、フィーナは反応が遅れて止められなかった。
伸ばした手が、むなしく空を切る。
アルフィードの行動は、誰も想定できなかった。
あっけにとられる面々をそのままに、アルフィードは荷馬車から降りると、声の主を探して――。
「っ! アルフィードっ!!」
金髪を振り乱して――馬から転がり落ちるように降りたプリエラは。
アルフィードに駆け寄ると、ひっしと抱きしめたのだった。
◇◇ ◇◇
「どれだけ――っ!!
心配したと――っ!!」
力強い抱擁に息苦しさを覚えながら、アルフィードは泣きそうになるのを我慢した。




