151.それぞれの事情 35
「…………………………え?」
「聞いてないんだな……」
ため息を落とすシン。
アルフィードを含める他の面々は、シンの言いたいことがわからない。
カシュートとゲオルク、ザイルは察していた。
「アルフィードが皇太子に連絡したとして。
互いの居場所、これからの手段の打ち合わせはどうする?」
「……国境越えの審査の時、手を打ってくれるのかと……」
戸惑いながらつぶやくアルフィードの答えは、それなりの理にかなっていた。
――が。
「難しいと思うが」
告げるシンに、アルフィードは「……そうですか」と受け止める。
アルフィードとしてはセレイス達に安否を伝えられればよかった。
――プリエラ。
彼女に何も告げず、クラウドのもとを去ってしまった。
アルフィードはずっとそのことが気になっていた。
せめてプリエラに、無事を伝えたかった。
セレイスから国境越えの助力を得られるのは、おまけだ。
立場上、難しいだろうから、ハナから期待していない。
「手助けが望めなくとも、試すだけ試させてもらえませんか」
アルフィードの固い意志に折れて、居合わせた面々は承諾した。
アルフィードが書いた文書は、シンとザイル、カシュートとゲオルクが検閲する。
知らせなくていいサヴィス王国の情報が書かれていないかの確認だったが――。
検閲した四人(正確にはゲオルクを除く三人)の協議の結果、全員に回覧させた。
書かれた内容を共有すべきと判断された。
アルフィードは戸惑い「つたない文章だから恥ずかしい」と回覧を断った。
が、アルフィードの心情に構わず、文書は人から人の手へと渡った。
アルフィードは恥ずかしさで顔を赤くして身を小さくしていたが、読んだ者達は文章構成うんぬんより、内容を注視した。
クラウドの容姿、彼とのやりとり、儀式の間での出来事――。
アルフィードが書いた内容は、つたない文章だったが、状況を思い浮かべられるものだった。
儀式の間での出来事、リュカ、クラウドとのやりとり――。
セレイスとプリエラに宛てた手紙の内容は、サヴィス王国の、この場に同席した面々も共有したものとなった。
回覧後、アルフィードはセレイスの魔法を行使した。
紙面に置いたペンダントが、淡い白色光を放つと、ふっと光が立ち消え、夜闇色の小鳥がその場に生じた。
小鳥はキョトキョトと周囲を見回し、翼を広げて羽ばたいた。
セレイス――皇太子の元へ向かったのだろう。
夜闇に溶けた魔法の小鳥を見ながら、ぽつりとシンがつぶやいた。
「濃色は――アブルード高貴な色になる」
濃い色は黒に近い色だ。
目立たず、気付かれにくい。
アブルードでは華美を良しとせず、濃色系を好む。
実生活では高貴な者ほど濃厚色を纏う傾向だった。




