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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第二章 セクルト貴院校
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32.学年寮長【伴魂 前編】


 フィーナが投下した爆弾発言に、食堂がざわめきに包まれる中、ラナは時折、肩からかけた小物入れを気遣っていた。


 サリアに叱られて落ち込んでいたフィーナだったが、そうしたラナの様子に気付くと、彼女の伴魂の容体が気になって「……大丈夫?」と声をかけていた。


 フィーナに声をかけられて、ラナは驚きながらも「……はい」と答えた。


「……意識は、あるの?」


 フィーナが尋ねると、ラナは顔をしかめ、唇をかみしめて小さく頭を振る。


 傷を負ってからは眠ったままなのだと告げた。


「どのように怪我を負ったの?」


 状況を尋ねるフィーナに、ラナは伴魂に視線を落したまま、ゆるりと頭を振った。


「もう、いいのです。……せっかく魔法の授業の件を取り成して頂いたのに、申し訳ありませんが……やめようと、もう決めたことですので」


「え!?」


 驚くフィーナの声に、近くにいた女生徒が「何事か」とフィーナ達に視線を向ける。


 そうした視線に気づいて、フィーナも声を潜めてラナに「駄目だよ」と諭そうとした。


 伴魂が取り上げられる可能性は口にできないので、何かいい案はないかと思考を巡らせるが、出てこない。


 やめると決めたからには、セクルト貴院校卒業者という価値を重要視していないのだろう。


 止めようとあたふたしながら、けれど何もいい案が浮かばないフィーナに、ラナが小さく微笑んだ。


「心遣い、ありがとうございます。――先ほどの件で、あの方々の鼻が明かせただけで十分です」


 後半はひそめた声でラナが告げる。そして申し訳なさそうな表情を浮かべた。


「心遣いはありがたいのですが……。このような伴魂が危険な目にあう場所は……怖くて一時も居たくないのです」


「えっと、だから。どんなふうに怪我をしたのか、教えてくれたら対処の仕方もあるだろうし、治療方法もあるかもしれないから」


 だから教えて?


 そう尋ねるフィーナに、ラナは頑なに話そうとはしなかった。


 前詞アンセルに関するざわめきもおさまってきて、次第にフィーナとラナに注目が集まり始める。


 二人のやり取りの一部が聞こえたのだろう。


 ブリジットが、くっと笑ってわざとらしく大きな声でこう告げた。


「おおかた、獣を捕える罠にかかってしまったのではなくて?」


 嘲りを含んでくすくすと笑う言葉に、ラナは俯いたまま、何も言わなかった。発言しなかったものの、俯いた髪の間からのぞいている耳が、赤く染まっていた。


 それは伴魂に対する侮辱だった。


 元来、伴魂の契約を交わした獣は、食指が変じるため、野に存在する獣を捕えるための罠にかかることはない。


 貴族の伴魂でも平民の伴魂でも、伴魂は魔力を多分に含んだ食物を食料とし、基本、主から魔力供給されるため、食物を必要とはしなかった。


 彼女の発言は、伴魂が罠にかかったのならば、野の獣と変わりないとの嘲りが含まれていた。


 ラナが伴魂が傷ついた状況を話したがらないのは、彼女の発言が当たっていて、同時に自身の伴魂を貶めると知っているからだ。


 主の魔力を生の糧とする伴魂でも、魔力が多分に含まれた食物には目がない。


 戦時中は伴魂のそうした習性をついた攻略があったと、文献に残っている。


 戦時中、敵国に為し、もしくは敵国から為された行為だが、今現在は倫理感からそうした行いはするべきではないと定着している。


 ――はずだったのだが。


 ブリジットの発言、潜めいた話を交わす女生徒、ラナの反応。


 それらを総じて、フィーナはラナが置かれている状況が想定できた。それはラナが置かれた現状が、つらいものだと思えるものだった。


「――ラナって、どのクラスか知ってる?」


 側にいたサリアに、フィーナは小声で尋ねた。


 クラスは成績順に、1から順次振り分けられる。一クラス約十人。成績順なので、男女の比率は異なってしまう。


 フィーナは1クラス、ブリジットとサリアは3クラスだった。


 サリアは言いにくそうに、同じクラスだと囁いた。


 市井出身者でサリアと同じクラスなら、入学試験の結果が優秀だったのだろう。


 答えて、サリアは嘲笑する面々にも視線を向けて、彼女らも同じクラスだと示した。


 そうしたフィーナとサリアの潜めいた話にも気付かず、ブリジットは声高らかに口を開いた。


「私の元にも、相談が来てましたわ。一人の生徒の理解がままならないため、授業が進まなくて迷惑していると。日が浅いので慣れていないのだから、寛大な心をお持ちなさいと諭したところでしたけれど……これで懸念もなくなりましたわね」


 学年寮長として相談を受けて対処していたのだと、ブリジットは示したかったのだろう。


 暗にラナと同じクラスの生徒から相談を受けていたのだと、ブリジットは仄めかしている。


「――ラナ、あなたにもブリジットから話はあったの?」


「――え……」


「話すわけありませんわ。そんな野暮なこと……」


 テレジアの問いに戸惑うラナ、当人に話すわけがないだろうと心外だと告げるブリジット。


「けれど、もういいじゃありませんか。この方も貴院校を去るとおっしゃっているのですから」


 一件落着だとの雰囲気をのぞかせるブリジットに、フィーナは我慢できずに「あの……」と口を開いた。


「ラナの伴魂、もう少しよく見せてもらえませんか?」


 話の論点から外れたフィーナの提言に、その場に居合わせた者達が、互いに顔を見合わせた。


「なぜ?」


 怪訝な表情をのぞかせるテレジアに、フィーナは「確かめたいことがある」と告げた。


 テレジアは訝りながらも、ラナに尋ねると、ラナも怪訝な表情をのぞかせながらも了承した。




伴魂に関してです。

前後編になりました。

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