148.それぞれの事情 32
◇◇ ◇◇
「ちょっ……っ! フィーナ!
声、大きい!
内密にって言ったのに……!
マサトにも伝えないでって……!」
「だ……だって!
内密とか……っ。
えっと……!
え!?
何がなんだかわかんないんだけど……っ!
でもマサトには私、言ってないよ!?
ってか、それより――!
どうしてそうなるの!?」
「そーだよ! 何でアブルードの皇太子が関わってくるんだ!?」
閉められていたダイニングの扉を勢いよく開けたのは、人の姿になったシンだった。
伴魂姿では扉を開けられなかったからだろうと思いながら、アルフィードはフィーナを責める。
「マサトには知られないよう気をつけてって、あれだけ言ったのに!」
「い――言ってないよ!
意識下の疎通もしてない!」
フィーナは頭を左右に振って否定する。
否定しながら、それとは別の件に、混乱しているのが誰の目にも明らかだった。
困惑するフィーナに変わって、シンがアルフィードに答える。
「伴魂には主の大きな感情の揺れは、否応なしに伝わるんだ!
フィーナにそのつもりなくても、こっちは聞こえてんだ!」
「え!?
そうだったの!?」
伴魂と主との関係性を再認識するフィーナは「いや、それより」と、話題の本題に戻った。
「ってか――え?
皇太子と連絡取りたいって――……」
困惑、混乱しきりのフィーナの表情には、アルフィードへの疑心も含まれている。
なぜ、敵対する国の王族と連絡をとろうとするのか――アルフィードは彼らに傾倒しているのか――。
アルフィードもフィーナの疑念に気づいて、慌てて言いつのった。
「約束したのよ。
セレイス殿下――あの方が知りたいことを伝えると。
その代わり――出国の手助けをしてくれるって」
「どういうことだ?」
眉をよせるシンに――騒ぎを聞きつけて集まった面々に。
アルフィードは戸惑いながら、仕方なく、セレイスとの話を伝えたのだった。
話を聞いたシンは、眉間に皺を寄せて考え込む。
アブルードの内情を知らない面々は、話の不可思議さに首をかしげる。
「皇太子ともなる方が、お忍びで他国から人を拉致したということですか?」
端的にまとめたザイルの言葉は、居合わせた面々の「信じがたい」心情を示した。
ザイルの疑念を感じながら、アルフィードはうなずく。
「今の自分では知りたくても知れない、魔窟部分に踏み込みたいのだと――そう言っていました。
セレイス殿下は、ルーフェンスの巫女自体、知りませんでした。
殿下が言うには、それらは皇族は知らず、唯一、皇帝陛下が知るのみだと。
魔窟の情報を得たいが為に、サヴィスへオーロッド共に赴いたのだと」
 




