146.それぞれの事情 30
「これは?」
「豚汁もどき。炊き出しの定番だな」
席についてフィーナがシンに訊ねる。
答えたシンに、続けてフィーナが訊ねた。
「食材の中に木の根っこがあったけど……それも入ってるの?」
椀の中を疑惑の眼差しで探るフィーナに、シンは苦笑した。
「それで国際問題になったの、歴史であったな。
「捕虜に木の根を食べさせた」とか。
木の根に見えるけど、違う。立派な食材だ。
この世界でも、食べる風習あるかは不明だけどな。
ちゃんと調理すれば、美味いんだ。
これがないと、風味出なくて物足りないんだよ。
ただ……こっちの世界、洋食主体だから、和食が口に合うかは責任持てんが」
「ヨウショク? ワショク?」
「フィーナに教えてたのは主に洋食系。
これは……今までのと違うだろ?」
言われて――フィーナも何となくだが違いを感じた。
違うと思っても、なぜかはわからない。
首をかしげつつ、皆の席に準備された料理を、それぞれが席に着いたのを確認して食しはじめた。
静かな食事だった。
マサト由来のフィーナの料理の時は、経験のない料理に驚愕し、珍しさ、おいしさに沸き立っていた。
しかし今回はいつもと様相が違った。
珍しく、これまでに食べたことのない味には変わりないのだが、興奮はしない。
興奮はないが「ほう……」――と。
体から余計な力が抜けて落ち着ける料理だった。
「はぁ~。やっぱいいな、これ」
つぶやくシンに、同席した面々は同調してうなずいた。
「不思議な……味わいですね。
これはこれでいけますが」
言いながら、ザイルが材料を確認している。
食べ慣れた食材ばかりなのに、何が違うのか、不思議がっていた。
フィーナも、意外とおいしくて驚いた。
これまでの料理のように「おいしいから食べたい!」と違い、「疲れた。これ食べたら疲れがとれそう」と思える料理だった。
だから余計、気になって仕方なかった。
「木の根っこって、これ?」
フィーナは腕の中を探ると、それらしき薄切りを箸でつまみ上げ、シンに訊ねた。
薄い楕円形の食材。
薄いので口に入っても、誰も気にならなかったが、フィーナの一言に場がざわついた。
「木の根?」
フィーナの隣に座るカイルが目を丸くして眉をひそめる。
同席した面々は、同様の表情を浮かべた。
シンとしては想定内のことだった。
「違うってさっき言ったろ」
シンは台所に行くと、奥から細長い物を持ってきた。
「これだよ。
ゴボウって言うんだ」




