139.それぞれの事情 23
フィーナは涙を拭うと「ごめんなさい」と同席した面々に謝る。
「どうしたのか」との声には緩く頭を振るにとどめていた。
――ちらりと、マサトをのぞき見しながら。
目が合ったマサトは、同時に意識下でフィーナの心情を感じて、涙の理由を知る。
『あ~……。
ワリ。
俺の記憶が見えたみたいだ。
前の主と別れたの、戦場だったから』
(――やっぱり……)
背後で燃えさかっていた炎。
あれは戦火だった。
もしかしてと思っていた答えを得て、フィーナは胸の奥が重くなった。
アブルードでは戦闘員だったと、マサトは言っていた。
フィーナもその認識はあったが、字面としてとらえていただけで、戦場、戦闘、人が入り乱れ、殺傷が行われる情景を想像できなかった。
聞いたことはあった。
本で読んだこともあった。
――だけど。
(見たことは、なかった)
戦場を描いた絵画は、ほんの一部だ。
猛る炎の熱波、流れる血――。
経験者の感覚だけに、生々しい。
気まずそうに告げたマサトの説明に、面々は事情を察した。
『話戻すが……。
アルフィードが拉致されたのは、オーロッドがルーフェンスの巫女の素質を感じたからだろうよ。
俺もまさか、オーロッドがルーフェンスの巫女を知ってると思わなかった。
ルーフェンスの巫女は俺たち――転生従魔同様、重要機密事項だ。
一部の貴族しか知らないんだ。
まさかオーロッドの地位のヤツが知ってたなんてな。
アルフィード見た時から、ルーフェンスの巫女一族の容姿に似ているとは思ってた。
けどルーフェンスの巫女一族はアブルードが厳重に管理してる。
似てるのは偶然だろうと――こっちに来るまで思ってた。
こっちに来て調べるうちに、素質を見込まれたからだと――ようやく気づいた。
――いや……随分前から……ホントは気づいてた。
気づかないフリをしてた。
「ここはアブルードじゃないから、気づくヤツはいない」
って、高をくくってた。
アルフィードの珍しい伴魂。
それがルーフェンスの巫女にふさわしい素質の現れだ』
◇◇ ◇◇
「おねえちゃんの――伴魂?」
訊ねるフィーナにマサトは答える。
『珍しい伴魂だろ。
ルーフェンスの巫女は魔獣に好まれる』
更新優先して短いです……。
久々、アルフィードが拉致された辺りを読み返しました。
2度目のスーリング祭、辺りから。
自分でも「あれ? どうなるんだっけ?」と思うこと多々あって、自分が書いたのに読者気分。
こういうのも好きで、書き続けてるってのもあります。




