133.それぞれの事情 17
「不利益とは……」
「五体満足の保障は致しかねます」
ピシリと断言され、アレックスは押し黙った。
「もとより、公表するつもりはない」
カイルがため息混じりに告げた。
「なぜ」と問うアレックスにカイルは渋面で答えた。
「あれは異質だ。
――……説明しようがないが、使った後、体の奥底が揺らぐ――奇妙な感覚が続く」
言いながら、カイルは自身の体を眺め見た。
「四肢の感覚も……全身が奇妙だった」
自分の手足、体が自分のものであるような、ないような。
物を取ろうとして――手は動いてその物を取っているのに、動かす感覚、つかんだ感覚がなかった。
数秒、感覚を遅れて感じた。
感じない違和感。
遅れて感じた違和感。
その感覚が数時間ほど続いた。
それがカイルが転移魔法を「危険性のない魔法」と言えない理由だった。
カイルの話を聞いて、アレックスも渋面で押し黙った。
アレックスを確認して、カイルは同席する面々に、転移魔法使用を公表しないと告げる。
「なぜ、そなた達は知っている?
会う前から?」
カイルの問いにカシュートは静かに答えた。
「なぜ知っているかにつきましては、仕事で得た知識にございます。
それ以上、説明のしようがございません。
父と共に様々な国を巡り、様々な人、獣、魔物、状況に遭遇しました。
それらの経験値から得たものとなります。
昨年殿下が転移魔法を使用した際――特異な魔法は周囲にも影響するのですよ。
遠く離れていてもです。
気づいたのは父の伴魂です。
伴魂から伝わってくるものから、転移魔法が使われたのだと思い至りました。
他の者が使用した時と、伴魂の反応が似ておりましたから」
(他の者が使用――って、カイルの他にも使える人がいるの?)
驚くフィーナと同様、カイルも目を見張る。
カシュートはフィーナとカイルの表情に気づきながら、そのまま話を続けた。
「側でフィーナの気配も感じました。
殿下の御尊顔は式典などで遠目ながら拝顔の機会がありました。
伴魂の気配も、そのときに感じておりました。
フィーナの側、場所、感じたものを総合して、殿下が魔法を行使したのだと判断いたしました」
「他にも使える者がいるのか?」
「希有な能力です。
誰とはわかりませんが、気配から一人だけ把握しております。
殿下とは種類が違うようですが」
「特異な魔法を使える伴魂は多いのか」
「多くはありません。少数ですね。
知性が高い伴魂に、その傾向が見受けられます」
少しずつ伏線回収しています。
アールストーン校外学習の時から、カイルの魔法は考えてました。
今回は概要です。
深い話は後日になります……多分。
 




