124.それぞれの事情 8
「え!?」
不意を打って叫ばれた声に、フィーナも驚いて声をあげる。
「な――なに!?」
声の主、御者台のシンを見ると、顔を青くして焦りをにじませている。
体調不良とは異なる顔色の悪さだ。
「そ――その置いてきたのって――」
御者台から振り返り、ゲオルクに尋ねるシン。
ゲオルクがシンに答えようと口を開いたが、ふと何かに気づいたように、視線をあげる。
「――着いたな」
「ウソだろ!?」
言いつつ、シン自身、ゲオルクが真実を告げているとわかっている。
自分も――感じるのだから。
「どこに――っ!!」
(――『天誅っ!!』)
「――え!?」
アルフィードの意識下に、突然響いた叫びと。
その声を聞いて驚きの声を上げるアルフィードと。
「いってっ! ちょっ、待てっ!
待てって!」
悲鳴を上げながら、顔と頭部を腕でかばうシンと。
バサバサとシンを攻撃する鳥の羽ばたき音、ピーピーと癇癪をおこした鳥の声、それらが重なったのだった。
◇◇ ◇◇
(――『こっのっ! 嘘つきバカネコ!!
よくも騙したわねっ!!』)
「仕方ねーだろっ!
連れてったって、すぐにバレんだよ、お前目立つから!」
(――『うるさいうるさいうるさい!
嘘つき嘘つき嘘つきっ!』)
ピーピー鳴かれ、バサバサと羽でたたかれて。
おまけにカカカっ!――と、シンは飛来した鳥に嘴でつつかれる。
その鳥を見たアルフィードは驚きの声を上げた。
「どうして――っ!」
ここにいるの。
アルフィードは自身の伴魂を見て、目を見開いた。
伴魂はサヴィス王国に置いてきたと聞いていた。
伴魂の契約も解除されたので、伴魂は自由の身になったはずだ。
アルフィードの声に気づかないほど、朱色の小鳥は怒り狂っていた。
自身の伴魂――もとい、元、伴魂を見ていると、アルフィードの脳裏にいくつかの情景が流れ込む。
自分もついて行くと、しつこくネコの姿のマサトに訴える朱色の小鳥。
無理だ、危ない、ダメだ。
そう断り続けたマサトも、根負けして了承した。
喜んだ朱色の小鳥だったが。
待ち合わせの時間、待ち合わせの場所で。
待てど暮らせど、マサトは来なかった。
数日後。
貴院校の伴魂の噂で、フィーナが長期休暇を取ったと知り、自分が置いて行かれたとショックを受ける情景が、アルフィードの脳裏に伝わった――。
その時の怒りを、シンにぶつけている。
我を忘れて攻撃を続ける小鳥を、ゲオルクが御者台の後ろから腕を伸ばしてするりと捕獲した。
「落ち着け。
それより主を先に助け――」
(――『私の主はアルだけよっ!!』)
ピーピーと、クラウドの手の中で暴れる小鳥だったが、差し出された手の先で、アルフィードと対面して、驚きでピタリと硬直する。




