121.それぞれの事情 5
聞いて――別の疑問が生じた。
カイルが転移魔法を使えるのは間違いない。
間違いないが――。
ゲオルクは以前からカイルの能力を知っていたようだ。
カイルの見姿だけでなく、王子であること、他の部分も知っているようでもある。
なぜゲオルクが知っているのか。
聞いたら答えてくれるだろうが、聞いたことに答えてくれるか。眉をひそめるところである。
ゲオルクの答えは、的外れが多々あった。
答えは間違いではないが、ゲオルクの知識を誰もが知っている前提で話すので、質問した側からすればトンチンカンな返答となる。
ゲオルクもそのような状況を理解しているので、答えて、質問した側が「?」な表情をすると、そこで話を切るようになった。
懇切丁寧に説明した時期もあったが、徒労に終わる方が多かったので、いつしかおざなりな説明しかしなくなった。
祖父、ゲオルクから聞き出すには。
(コツがいるんだよね~)
そのコツが、少々面倒だった。
気になることはたくさんあるが。
話の切り出しを決めて、フィーナはガタゴトと揺れる荷台の上で、祖父の側に行った。
ゲオルクとカシュートは、側に来たフィーナを「どうした」と目線を送る。
「助けてくれて、ありがとうございました」
言って、簡易な礼をとる。
家族間では簡易なものでも礼をとることはない。
家族に礼を送るのは、多大な感謝を表していた。
ゲオルクとカシュートは呆気にとられた。
フィーナが礼を送るほど逼迫した場だったのだと、二人は理解する。
ゲオルクは静かにフィーナに告げた。
「無事で何より」
ゲオルクの言葉に、フィーナは頭を下げた。
「――ところで」
言って頭を上げたフィーナの顔には、愛想笑いを貼り付けている。
「いろいろ説明してもらえるかな? もらえるよね?」
「え。なに。その『真綿で締める』詰め方」
引き気味のカシュートに「だって!」とフィーナは声を荒げる。
「わかんないことだらけなんだもん!
どうしておじいちゃんとカシュートおじさんがここに――アブルードに居るわけ!?
タイミング良すぎだし!
それにカイルのことも――」
「――オズマ」
「どうして知って――っ!
わっ!
ちょっ、オズマ!
やめてっ!
そんなに顔っ……! なめないで~!」
問いただすフィーナに、ゲオルクが静かにオズマの名を呼ぶ。
主の命を受けた伴魂は、我慢していた、じゃれつき、甘えたい衝動の箍がはずれて、尻尾を盛大に振りつつ、フィーナに飛びついて、盛大に甘えた。
オズマはゲオルクの伴魂だ。
伴魂は基本、主以外に触れられるのを厭い、主以外が伴魂に触れるのを禁忌と、暗黙の了解としてなっていた。




