113.シンという男 55
見覚えはあったが信じられないのが本心だろう。
それはフィーナも同じだった。
姿形は間違いなく祖父だとわかる。
困惑しているのは。
なぜ、ここに祖父が居るのか。
祖父は薬草探索で様々な国を渡り歩いている。
そうわかっているが、偶然に遭遇するにしても、あまりにもタイミングが良すぎた。
困惑するフィーナが祖父に目を向けていると――。
風威で、祖父の貫頭衣がはためいていたその先に。
風威が落ち着いて、衣が降りたその先に。
自身の伴魂を肩に乗せたカイルが、呆然と立ち尽くしていた。
◇◇ ◇◇
全身が朱系の羽を纏うカイルの伴魂。
自身の体躯と同じ長さの尾羽を持つ、美しい伴魂。
腕に抱える大きさの伴魂を肩に乗せたカイルは、呆然としていた。
その表情から、目の前の情景を理解できない様子がうかがえる。
フィーナの祖父――ゲオルク・エルドは、そんなカイルの肩に手を置いた。
ゲオルクは、彼の年齢からすると長身で、ザイルとほぼ等しい背丈だ。
姿勢もよく、その姿は「武闘派」と一見してわかる。
肩に置かれた手にハッとしたカイルが、ゲオルクを見上げる。
ゲオルクはカイルに目を向けると、ぽつりとつぶやいた。
「――さすがです、王子」
言われても、カイルは何のことか理解できない。
戸惑うカイルに、二人の後方から現れた男性が「危ないからこちらへ」と避難を促した。
「っ! カシュートおじさん!?」
フィーナの父、リオンの弟のカシュート。
カシュートはゲオルクに、薬草を探す諸国巡りに強制連行されていた。
それを考えれば、祖父と叔父が一緒にいるのは当然なのだが――。
カシュートはフィーナに気づくと、へらりと笑って手を振った。
――こっちは大丈夫だから。
そう言いたげな仕草だった。
大丈夫も何も――。
突然現れた祖父と叔父、カイルに困惑する。
――同時に。
フィーナの脳裏によぎった光景があった。
アールストーン校外学習で。
追手から身を潜めていた時、見た光。
光が消えると、その場所に居たカイル――。
――もしかして。
その時は深く考えないようにしていた。
カイル自身も訳がわからないようだったし、答えを出してしまうのも怖かった。
だってそれは。
途方もない能力だから。
転移。
一瞬にして、別の場所へ移動する――。
そんなこと、できるわけないと、フィーナは思っている。
そんな魔法があるにしても、世間一般で知られている魔法と違いすぎた。
カイルが転移の能力があるとしたら――。
恐れとは別の緊張で、フィーナは身を固くした。
希有な能力であると同時に、発動条件や制御法がわからないのなら。
カイル自身が危険なのでは――。
(――「まだやる気かよ」)
意識下で聞こえたシンの声に、フィーナは我に返った。
オズマの体当たりで飛ばされ、倒れたのだろうリュカが、剣を支えに立ち上がり、咳き込んでいる。
ひとしきり咳き込んだ後、口元を拭い、荒い呼吸ながら剣をゲオルクに構えた。
そのリュカに、ゲオルクは眉をひそめた。
「向かい来るなら、容赦はせんぞ」
「何様ですか。私がその気になれば――」
「アルフィードを犠牲にすれば勝機はある。――か?」
「――――っ!」
ゲオルクの言葉に、リュカにわずかながら動揺した。
フィーナの祖父、ゲオルク。
以前から彼の存在は考えてました。
ようやく登場となりました。
……長かった。
オズマは想定外です。
最初の構想は祖父単独でした。
んでもって、回し蹴り登場予定でした。
いくつか伏線回収できたのではと思ってます。
カイルが付いてきたのも、結果論として意味ありました。
……いえ、こうした理由ではなかったのですが。(同行するとなった時点では)
後に明らかにしますが、カイルが付いてきた理由は別にあります。
それはおいおいと。




