109.シンという男 51
◇◇ ◇◇
小学2年の時、親の都合で転校した。
転校先での生活に不満はなかった。
友達もすぐできたし、校内の雰囲気も不満なく、家のご近所方々も気のいい人たちだった。
――ただ。
これまでと違ったのは。
引っ越した先の隣の家に。
――死ぬまで、ご近所付き合いのあった家族に。
俺と同い年、同じクラスの男児がいて。
その男児が、俺と同じ
まさと
と、いう名だということだ。
転校してからクラスやご近所になじむまでに時間はかからなかった。
クラスメイトもご近所かたがたも、気のいい人たちで、俺たち家族が常識に則った行動をするとわかると、気のいい付き合いができた。
俺は 新條 雅人。
隣のあいつは 前園 眞人。
一緒に遊んで、遊ぶメンバーも一緒だった俺たちは「新條」「前園」と仲間内でもそれ以外でも姓で呼ばれるようになり、仲間内では「シン」「ゾノ」と呼ばれるようになった。
小中高、前園眞人と同じ小中高、親友と呼べる中だった。
俺は「シン」と呼ばれるのが普通で「まさと」と名で呼ぶのは両親を含める親戚くらいだ。
その両親も、母親は中学の時に事故死し、父親とは衝突ばかりしていた。
「雅人」と名を呼ばれても、違和感が強い。
俺にとっては。
シン
それが己の名と認識だった。
◇◇ ◇◇
シンは――マサトは。
フィーナに「マサト」と己の名を告げた時、嘘を言ったつもりはなかった。
新條 雅人。
本名に変わりないのだから。
アブルード国では「シン」の名で通していたこと、ネコという珍しい魔獣である自覚もあったので「マサト」の名を告げたのは用心した為でもある。
オリビアの騎士団に採用される経緯においては、シンは騎士団に所属するつもりは全く無かった。
リーサスのごり押しに負けて了承したが、受け入れられないだろうと――排除、免責されるだろうと思っていた。
だから。
名を問われ、反射的に馴染み深い名を答えて――それを訂正しなかった。
「シン」
それは。
親しい仲間から呼ばれた名だ。
呼ばれる状況下、呼ばれ方によっては、懐かしい学生時代が蘇るほどに、シンには――マサトには特別だった。
結果、オリビア有する騎士団所属騎士「シン」と。
フィーナの伴魂としての「マサト」が。
別個体として周囲に認識され続ける状況になったのだった。
◇◇ ◇◇
ネコの伴魂「マサト」は、騎士の「シン」で。
騎士の「シン」は、フィーナの伴魂「マサト」――。
混乱するフィーナの側に行ったシンは、剣をリュカに構えて小声で告げた。
「――詳しいことは後で話す。
今はアルフィードを助けることだけ考えろ」




