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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第十章 ルーフェンスの巫女
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108.シンという男 50


 マサト――フィーナの伴魂は、己の主が住まうサヴィス王国での生活を考慮し、かつ、マサトの追手対処法も必要だとの観点から「せめてこれだけは」と最低限の魔法をフィーナに取得させた。


 それはアブルード国の魔法だった。


 マサトはサヴィス王国の魔法を知らない。


 フィーナの将来を考えるなら、アブルード国の魔法を教えないほうがいいとわかっていた。


 国によって魔法は大きく異なるからだ。


 わかっていながらフィーナに習得させたのは、フィーナ自身の護衛のためだ。


 基礎は軽い応用も含めて徹底的に訓練し、習得する魔法は厳選した。


 防御、攻撃、捕縛、隠遁――。


 アブルード国の魔法は、基本はサヴィス王国の魔法と同じだった。


 異なるのは、アブルード国は戦争で効果的な手段を構築した点だ。


 サヴィス王国で言うところの伴魂を、精鋭兵にあてがう。


 兵を主とする主従関係を無理矢理契約させ、従魔とする。


 その後、訓練の中で兵と従魔の相性を見つつ、戦力として育てる。


 戦場での従魔の役割は――。


 サヴィス王国と大きく異なる魔法の使用方法は。


 主の意向を瞬時に理解し、前詞アンセルを唱え、主の呪文ルキを補助する――。


 フィーナがマサトにたたき込まれた魔法も、その類いだった。


 マサトはサヴィス王国の魔法を知らなかった。


 フィーナがセクルト貴院校で学ぶ折、伴魂として同席し、アブルード国との違いに驚いた。


 もとより「非常事態のみ使用可」としていたので、フィーナの魔法の特異性を知る者は少ない。


 フィーナも「自分の伴魂は変わってるから、魔法も変わっているのだろう」と深く考えていなかった。


 マサトから訓練された魔法を、聞こえた言葉に反応して反射的に唱えたフィーナだったが、強力な魔法を成した目の前の状況より、心奪われていることがあった。


 困惑し、思考が頭の中をぐるぐると巡っている。


(なに――? どうして……どういうこと――?)


 考えても考えても、答えもわからず、推測すらできない。


 マサトから訓練された魔法の前詞アンセルは――。



      シンが    唱えた



 それだけなら「シンはアブルード国の魔法を知っていた」とフィーナは思うだけだ。


 シンは仕事柄、様々な国を知っている。


 知識の一つだろうと――その知識の一つが、偶然、フィーナが知っている魔法だった――は、さすがに都合がいいので、何かしらの経路から、フィーナが取得している魔法を知っているのだろうと考えたはずだ。


 フィーナが混乱しているのは。



      シンの   声が



      音声として耳からだけでなく



      ――意識下の『声』でも



      聞こえたからだ――



 マサトの声とシンの声は、声質、声の高さが違う。


 だから今まで気づかなかった。


 前詞アンセルの声を、聴覚と意識下、同時に聞いて理解した。


 声の抑揚、アクセントの癖。


 重なった、現実と意識下の声。


 聞こえた前詞アンセルを継いで、フィーナは反射的に呪文ルキを唱えた。


 腕を横にいだ動きに伴って、無数の氷の槍が出現し、リュカへ向かった。


「っ!?」


 驚いたリュカは間近な氷槍を数個、破壊したものの、対処しきれず、その身に食らう。


 被弾した無数の氷槍で、リュカの周囲に氷の靄が生じた。


 居合わせた面々が、息をのんで状況を見守る。


 靄が晴れ、見えたリュカは全身切り傷を負い、腰近くの左下腹部に氷槍が刺さっていた。


 リュカは忌々しげに氷槍を見ると、力任せに引き抜く。


 血が噴き出した患部を抑えた。


 それを見ながらも、フィーナは気もそぞろだった。


 リュカを注視しつつも、シンが気になって仕方ない。


 そんなフィーナの困惑の答えをもたらしたのは、図らずもリュカだった。


「やはり――」


 傷口を押さえ、満身創痍の風体で、じろりとシンを睨み付ける。


 口の端に、咳き込んで垂れた血筋を拭いながら、皮肉じみた笑みを浮かべ言葉を続けた。


「あなたが神従魔クリーディア――」


「――神従魔クリーディア……?」


 リュカの言葉を、フィーナが無意識で訊ねる。


 無視されても仕方ないところをリュカが答えた所を見ると、彼もその話をしたかったのだろう。


 自己満足の為か――訊ねたフィーナを見て、細部を知らない幼子を困惑させようとしたのか。


 意図はわからないが、リュカは口元に皮肉じみた笑みを浮かべつつ、フィーナの問いに答えた。


「ええ。彼が神従魔クリーディアの礎を築き――これまでの地位の低かった従魔のあり方を変え、戦場での有用性を国内外に知らしめたのですよ。

 ねぇ――?」


 リュカはシンを見て、ゆっくりと口を開いた。



   「神従魔クリーディア  新條しんじょう 雅人まさと




名前、フルネーム言えた……!

やっと……!

ここまで来れたって気分です。

大きな伏線回収。

「なぜ?」部分は、これから明かしていきます。

書き始めた割と初期段階から、この場面が頭にありました。

正確に言うと、拉致されたアルフィードをシンが助けながら、フィーナと連携して対処する中で、隠したかったけど隠しきれずに魔法唱えた――。的な場面です。

伏線回収。

もう少し続きます。

(……もう少しのレベルかな?(汗))

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