105.シンという男 47
小声で話しながら、タイミングを伺う。
作戦はすぐに実行された。
防御ばかりだったシンが、リュカへと斬りかかる。
押されたリュカは、後方に下がりつつ、フィーナにも注意する。
――が、シンが視界を遮って、フィーナの姿が見えない。
そんな時だった。
「水宴!」
フィーナの呪文を聞いて、リュカは反射的に警戒した。
それがどのような魔法なのか、リュカは知らない。
おまけにシンが視界を塞いでいるのでフィーナが見えない。
このままではシンも道連れ――というより、シンに被弾するのでは。
リュカが瞬間的に考えた時だった。
「今よ!」
フィーナの声に反応して、シンが身をかがめた。
シンが居た場所から――正確にはその後方から、突如、人の頭ほどの大きさのある水球が現れた。
「――――っ!?」
避ける暇もなかった。
それが何か、判断しようとする一瞬の間に、水球はリュカの顔に飛来する。
水球をまともに受けて、リュカは反射的に目を閉じ、シンから気がそれた。
顔を濡らす水に戸惑い、それが何かを理解しようと思考を巡らせ――水宴を知らないため、軽く混乱した。
そのスキをついて、シンはかがんだ姿勢から思い切りリュカの腹部を蹴りつけた。
地面に手をつけて、腕の反動を加えての、急所を狙ってのものだ。
「――っ!!」
リュカは後方に飛ばされ、倒れ込む。
呼吸を阻害され、激しく咳き込み、痛みに悶絶した。
不意を打たれた腹部への蹴激で、意識を失いかける。
「――やったか?」
倒れ込んだリュカを警戒しつつ、シンはフィーナの側まで下がって、様子を見守る。
フィーナの案は成功した。
タイミングがうまくいくか賭けだったが、結果は上々だ。
シンとしては屈んだ体勢から、剣を横凪にしたかったのだが、体勢を崩してうまくいかず、とっさに腹部を蹴りつけるのに変更した。
急所をとらえた自信はあったが、どれだけ通用するか――。
立ち上がるなと願うシンとフィーナの前で、リュカはよろけながらも体を起こす。
腹部を押さえながら、苦痛に顔を歪めていた。
シンは舌打ちして、剣を構える。
フィーナも再度、マサトの気配を探って身構えた。
リュカは腹部を押さえて咳き込んでいる。
咳が止まると、視線を落として口元を腕で拭った。
「――…………」
そのリュカの口元が、小さく動いた。
何と言ったのか聞こえず、フィーナとシンは眉を寄せる。
――そのリュカの剣が、パリ。――と。
光が爆ぜた。
(――『雷――』)
「カミナリ?」
意識下で聞こえたマサトの声に、フィーナが訊ねる。
返事はなかった。
代わりにと言うか――側に居たシンが、パリパリと音を立てて小さな光を帯び続けるリュカの剣を見て、息をのんで叫んだ。
「さっきも言っただろ!
それはアルフィードの負担になるって――!」
「わかっていますよ。
ですから先ほどより抑えているのです」




