102.シンという男 44
(気づかれてた――)
マサトの姿が見えなくても、フィーナが魔法を使ったので知られたのだろう。
しかし――。
(クリーディア……?)
この国での従魔の呼び方なのかと思ったが、リュカの話しぶりでは特別なように聞こえる。
(そういえば……)
クレンドーム国、王女のユーファ。
彼女の伴魂、フェレットのリック。
リックもマサトと同じくアブルード国から逃げた従魔で、マサトは戦績優秀だったと言っていた。
あの時は「そうなんだ」と思っただけだったが――この国からすれば、追手をかけてでも欲しい人材だったのだろう。
――不思議なのは。
マサトの拉致未遂が一度だけだったことだ。
その後も手出しがあるだろうと思っていたが、皆無だった。
諦めたのだろうと思っていたところへ、別件でアルフィードがさらわれた――。
偶然か、繋がりがあるのか――。
(リックは従魔を別の呼び方をしてた)
隷獣。
そう言っていた。
リュカの言うクリーディアが何かわからない。
マサトは実際姿を見られずとも、気配で特別だとわかる存在らしい。
身元ばれしてるのだから、いい加減側に来て欲しい。
いらだちと焦りを募らせて、フィーナは胸の内でマサトを呼び続けるが、反応がない。
そればかりか、シンとリュカが争っていた場所に居たときより、マサトが離れた場所にいる気がするのは――おそらく気のせいではない。
シンとリュカが争っていた場近くに、留まっていたのではと考えられる。
大方、リュカを監視するつもりだったのだろうが。
(こういう時って、主の心配するんじゃないの!?)
次第に近づいている――ように感じるが、いつもながら感知範囲が広いので、はっきりとはわからない。
「――そうね」
姿が見えないマサトに気づいていた。
フィーナはリュカに話を合わせた。
「もし、お姉ちゃんとこの国に下ったとして――私達にどんな利があるの?」
もちろん、そんなつもりはさらさら無いが「ちょっと興味あるかも」と見せかけて、話を伸ばして時間稼ぎを試みる。
フィーナの言葉に、リュカの顔がぱっと華やいだ。
――依然、狂気をはらんだ瞳と表情を宿しながら。
「もちろん、地位も名誉も金銭も思うままですよ。
ご実家などと比べものにならない裕福な生活となりましょう。
後悔などさせません」
ご実家などと――。
その物言いが、小馬鹿にする感情が見えて、フィーナの気に触れた。
「裕福だとしても、自由はないんでしょ?」
裕福な生活も、地位も名誉も金銭も、求めてると言った覚えはない。
実家に不満などないし、両親を尊敬しているし、小さくはあるが、村人が暖かいドルジェ村を好いている。
苛立ちから反射的に告げたフィーナは、言った後で「しまった」と悔やんだ。
話を長引かせるも何も、自分からケンカを売ってどうする――。




