96.シンという男 38
マサトが言うには、アブルード国では従魔を持つのも珍しく、ほとんどが国から下賜されたものだそうだ。
全国民、伴魂所有するのが当たり前のサヴィス王国とは、大きく異なっている。
フィーナが魔法を使ったから、宿主保持者と思われたのだろうか――?
「あの程度の魔法、こいつの国では使えるヤツ、ゴロゴロいるけどな」
フィーナの疑問を先取って、シンがリュカに牽制する。
アブルード国で言うところの「宿主」と万人が魔法を使えるサヴィス王国民は、意味合いが違うのだと含ませて。
シンの言葉に、リュカはきょとんと目を瞬かせた。
シンの言っている意味がわからない。
そんなリュカに、シンは言葉を続ける。
「こいつの国では、誰でも生活魔法は使えるし、使えないヤツなんていないくらいだ。
こっちでいう従魔も、自分たちでまかなっている。
宿主とかいう、特別なモンじゃあないんだよ」
シンの話を聞いても、リュカは腑に落ちない表情のままだ。
「よくわかりませんが――あなたも同じでしょう?」
「同じ……?」
自分を見て告げるリュカの言う意味がわからず、フィーナは戸惑い、つぶやいた。
フィーナの方を見るリュカに、シンがハッとして顔をこわばらせて叫んだ。
「アルフィード!!」
「っ、はい!?」
急に呼ばれたアルフィードが、びくりと震えて反射的に返事をした。
「あいつとはいつ、どこで会った!?」
急に問われて躊躇しながらも、アルフィードは答えた。
「監禁された部屋で――」
「成功した儀式の後か!?
従魔は居たのか!?」
シンに助けられてからこれまで。
行動を共にする中で、アルフィードはオーロッドに拉致されてからの経緯を、シンに話していた。
儀式の話もしている。
シンに言われて振り返った。
「――後でした!
従魔は居ません!」
思い出して告げるアルフィードの返事を聞いて、シンは苦虫をかみつぶした表情を浮かべた。
リュカに注意しながら背後にかばうフィーナに、小声で告げる。
「――タイミングを見て、ここから離れろ。
ザイルのとこに逃げろ」
「え……?」
シンの意図がわからないフィーナが、戸惑いの声をつぶやいた直後、シンはリュカに攻撃を仕掛けた。
体術と剣術を混ぜた攻撃だった。
リュカは剣は剣で、体術には体術で応じていた。
その間に、フィーナは言われるまま、ザイルの側に身を寄せた。
姉とザイルの側で、シンとリュカの攻防を見守った。
武に疎いアルフィードとフィーナでも、シンが劣勢だとわかる。
シンは「もしもの時は自分を無視して逃げろ」と話していた。
「一人旅は慣れてる。逃げられればどうにでもできる」
――と。
フィーナ達がこの場から離れれば、シンも時期を見計らって、戦線離脱するのだろうが――フィーナは自分でも理解できない不安を感じていた。
シンを残してこの場から離れる方が、シンにもいいのかもしれないが――。




