95.シンという男 37
シンはフィーナを背後にかばい、リュカに剣を構える。
「だから余計な手出しするなと言ったんだ」
背後のフィーナに、シンが舌打ちする。
アルフィードと合流後、ザイルを含めたフィーナ達に、シンは「自分の身は自分で守ってくれ。こっちも手出し無用。邪魔になる」と、対応方針を話していた。
あのときは、想定外の横やりは迷惑。との意味だと思っていたが。
「悪目立ちすれば目をつけられるって、少し考えればわかるだろ」
「――え……」
シンの言葉から、こちらを思ってのことだったと知る。
アブルード国には、アルフィード以外の情報は明らかとなっていない。
アルフィード救出を手助けしたとして、庶民であるシンが表沙汰となるほうが、国同士の関係からも一番都合がよかった。
ほかの面々は貴族籍だし、フィーナも実力を明らかにすると、アルフィードと共に目をつけられる可能性がある。
シンはそうした状況を見越していたのだとフィーナは知る。
落ち込むフィーナに、シンは「――けど」とつぶやいた。
「本音言うと、さっきのは助かった。
おかげで――こういう状況だけどな」
謝辞を述べ、シンは苦笑する。
余計なことをしたと後悔していたフィーナは、少しだけ心が軽くなりつつ、自身に降りかかった、想定外の厄災に戸惑っていた。
アブルード国の従魔だった、フィーナの伴魂、マサト。
マサトのアブルード国での主、リージェ。
アブルード国から逃亡したマサトは、前主を今も気にかけている。
マサトは何も言わないが、伴魂と主、その繋がりから、マサトの想いをフィーナも感じていた。
いずれマサトと共にアブルード国を密やかに訪問して、リージェ捜索できたらと、考えていた。
そうした考えがあると、マサトにも伝えている。
実際、どうするかはセクルト貴院校を卒業してからだろうと、フィーナは考えていた。
その際も、マサトとの関係が明らかにならないよう、気をつけるつもりだった。
今も、マサトとの関係を知れないように、本当は側に居て欲しいのを我慢していたのだが。
フィーナの魔法で、マサトとの関係を知られてしまった――。
そこまで考えて、ふとした疑問が生じた。
(あれ? でもマサトは――)
前主、リージェとの従魔関係を解消している。
主であるリージェからの解消だ。
従魔からの解消は、できなくもないが様々な問題が生じるらしい。
その一つに、アブルード国での履歴が解消されないとマサトが言っていた。
従魔から強引に契約を解除した場合、アブルード国に入国すると、その従魔を感知できるとのことだった。
前例が少ないので、詳しくはマサトもわからないと言っていた。
マサトは正当な手順を踏んでいるので、アブルード国に入国しても、探知されないだろうとフィーナは聞いていたのだが。
ではなぜ。
フィーナを宿主と見なしたのか――。
宿主は、アブルード国特有の呼び名だ。




