92.シンという男 34
(なんだ――?)
リュカは、自分でも理解しがたい感覚に戸惑っていた。
アルフィード以外、この場に居合わせる誰も知らないはずなのに、どこか懐かしい感覚を覚えていた。
リュカはなぜかわからず、戸惑いながらシンと剣を交える。
リュカとシンでは、リュカが優勢だった。
他をかばいながらのシンと、簒奪しようとするリュカとでは差が生じるのも当然だ。
リュカはアブルード国軍内でも、一兵団の将と同等の実力だ。
リュカ優勢の攻防の中。
シンが地面の段差に足をとられ、大きく体勢を崩した。
その一瞬を、リュカは見逃さなかった。
シンに斬りかかったリュカの太刀は――。
「硬盾!」
シンとリュカの攻防を見守っていたフィーナの盾魔法で防がれた。
「「!?」」
シンもリュカも、想定外の横やりだった。
フィーナも二人の攻防に介入するつもりなど、露ほども思っていなかった。
シンの危険を目の当たりにして、反射的に――気づいたら叫んでいた。
同時に――呪文を唱えたものの、発動するとは思わなかった。
リュカの太刀を防げるとも思っていなかった。
硬盾は、唱えた者の側で硬質な盾となる。
唱えた者から離れれば離れるほど、盾は脆弱化する。
そのため、硬盾は唱える者自身の、物的な盾代わりとしていた。
他人を守る力はないとされていたのだが――。
思わず唱えたフィーナの硬盾は、堅強な音と共に、リュカの剣を弾いてシンを守った。
フィーナ自身、効力があると思っていなかったので驚いた。
呪文を叫んだときも、いつもと感触が違ったので「発動しない」と思っていた。
発動したと言うことはマサトが意識下で話していたように、姿はこちらからは見えないが、近くに居るのだろう――。
状況を把握しきれず戸惑うフィーナに、シンが声を上げた。
「手出しすんな! 邪魔だ!!」
その声にフィーナはびくりと身を震わせ、体を萎縮させた。
硬盾は運良く、シンの助けとなったが、もし発動しなかったらシンの思考を乱す行為でしかない。
シンとしても想定外の横やりは、たとえ助けとなろうとも迷惑だろう――。
シンの叱責をフィーナはそうとらえて、反省した。
ザイルはアルフィードを守っている。
シンはリュカと対峙している。
(自分の身は自分で守る――)
今はリュカだけだが、いつアブルード国側の援軍が来るかもわからない。
それに備えつつ、シンとリュカの攻防の余波にも気をつけようと思ったフィーナが――ふと、シンを見た時――。
シンに向けた視線が、シンと対峙するリュカと……一瞬。
ほんの一瞬だけ、視線が交差した。
目が合ったわけではない。
当事者同士が意識するような、視線の絡みがあったわけでもない。
フィーナとしては、シンに目を向けた視線の動きの中に、ほんの一瞬、リュカと視線がかすった認識だった。
一秒にも満たない、刹那の瞬間――。
いつもなら気にならないが、なぜか、ぞわりと肌が泡立つ不快感を覚えた。
 




